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潤滑油の高性能化に、大きく寄与するのが粘度指数向上剤(Viscosity Index Improver、VII)です。
弊社は、1963年に粘度指数向上剤「アクルーブ」を開発して以来、たゆまぬ研究を続け数々の潤滑油添加剤を世に送り出してきました。
自動車や油圧機械などを広い温度領域で安定して使用するには、粘度指数向上剤や流動点降下剤は欠かせない存在です。
『アクルーブ』シリーズは2023年現在、ポリメタクリレート(PMA)系では国内シェア1位、海外でも2番手のシェアがあり、世界の自動車の省燃費化やCO2削減を通して、SDGs が示すエネルギー問題や気候変動対策にも貢献する製品となっています。
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アクルーブは、メタクリレート系ポリマーと鉱油を主成分とする潤滑油用粘度指数向上剤または流動点降下剤で、基油(鉱油、合成油等)に適宜配合することによって、優れた粘度特性を有した潤滑油(エンジン油、ATF、CVTF、ギヤ油、作動油など)が調製できます。
当社はさまざまな潤滑油のニーズに合わせたラインナップを多数取り揃えています。
図 アクルーブ主成分ポリマーの構造式
エンジン油や駆動系油などの潤滑油は、摩擦を低減して機械を円滑に動かすために欠かせないものであり、その機能発現のための要求性能のなかでも粘度は重要な性質です。潤滑油は、低温から高温(おおよそ-30~150℃)の広い温度領域で使用されます。液体の粘度は一般的に高温で低く、低温で高くなる性質を示しますが、潤滑油は粘度変化が小さいことが望まれます。
エンジン油の場合、エンジン始動時など低温時には低粘度の方が燃費は向上しますが、高速走行時などの高温になるにつれて粘度が下がりすぎると、油膜厚の低下でエンジンの保護性能が悪化します。そのため、温度による粘度変化の少ないものが高性能オイルとされます。
温度による粘度の変化は粘度指数で表され、数値が大きいほど温度変化に対する粘度変化が小さいことを意味します。粘度指数の大きいオイルは、低温時に低粘度でも、高温時の粘度が低くなりすぎないため、省燃費とエンジン保護を両立できるのです。
この温度による粘度変化を小さくするために潤滑油に添加されるのが粘度指数向上剤(VII)であり、粘度変化が小さい(粘度指数が高い)ほど燃費向上への効果が高くなります。
粘度指数向上剤(VII)の主成分は油溶性のポリマーです。オイルに添加した場合、高温では原子がつながったひも(分子鎖)が伸び広がることによってオイルの粘度低下をカバーし、低温では分子鎖が収縮して粘度を上昇させない働きをします。
粘度指数向上剤(VII)にはオレフィンコポリマー(OCP)系とポリメタクリレート(PMA)系の2種類があります。
OCP系は低コストですが、オイルに溶けやすいため、低温でも分子鎖が広がったまま粘度が高くなるという短所があります。
一方のPMA系は適度に溶けにくい特性があるため、低温では分子鎖が収縮し、粘度を低く抑えることができます。省燃費へのニーズの高まりから、近年はPMA系が需要を伸ばしています。
冬場、気温が下がると鉱物油系の潤滑油は、固化して流動性を失うことがあります。潤滑油や燃料油が、低温時に固化して流動性を失うのは、これらの油に含まれているパラフィンワックスが原因になって起こる現象です。
流動点降下剤(pour point depressant) は、冷時、油中から析出してくるパラフィンワックスの結晶に作用し、パラフィンワックが大きな板状結晶に成長するのを阻害することにより、潤滑油の流動点、低温粘度を下げる潤滑油添加剤です。
流動点降下剤としては、長鎖アルキル芳香族化合物,エチレン/ 酢ビ共重合体、長鎖アルキル基をもつポリメタクリレートなどの化合物が用いられています。
流動点降下剤は、その化合物中にパラフィンと似た分子構造、すなわち長いアルキル基やメチレン連鎖、およびパラフィンとは異なる分子構造である極性基や芳香族基の両方をもっており,、その化合物中の長いアルキル基やメチレン連鎖部分が、下図のようにパラフィンワックスの結品に吸着または共晶します。
その結果,ワックス表面にはパラフィンとは分子構造が異なる極性基などが存在することになり、ワックスの結晶がX軸やZ軸方向へ成長するのが抑えられ、結品形態が小さくなります。
図 パラフィンワックスの結晶の仕方
図 流動点降下剤によるパラフィンワックスの結晶成長の阻害
粘度指数向上剤として
特殊な設計により他社製品と比べて高温時の保護性能を保ったまま低温でのオイル粘度をより低く保てるため、さらなる燃費向上が図れます。
流動点降下剤として
潤滑油に合わせて最適な結晶化温度をもつ流動点降下剤(PPD)を選定することで、潤滑油の流動点をより下げることが可能です。
粘度指数向上剤(VII)に求められる主な性能:粘度指数向上性能とせん断安定性
流動点降下剤(PPD)に求められる主な性能:潤滑油の流動点、低温粘度の低下
前述の通り粘度指数向上性能は温度変化に伴うポリマーの溶解状態の挙動変化を利用しており、①基油への溶解性、②分子量の影響を受けます。
①基油への溶解性:溶解性の指標として溶解度パラメーター(SP値)が用いられます。SP値とは溶媒への溶質の溶解のしやすさを示し、SP値差が小さいほど溶解性が高いことを示します。
VII のSP値とVIIを添加した潤滑油の粘度指数との関係を左図に示します。PMA系の粘度指数向上性能がOCP系よりも優れているのは、溶媒である基油と溶質となるVIIのSP値差に起因します。基油のSP値(約8.2)との差が小さいOCP系(SP値=約8.2)は、溶解性が高く低温でも分子鎖が広がったままとなります。
一方、SP値差の大きいPMA系(SP値=9.0~9.2)は、溶解性が適度に低いため低温では分子鎖が収縮します、PMA系は高温での広がりとの差が大きくなるため、粘度指数向上能に優れます。
②分子量:VIIのポリマーの分子量が大きいほど粘度指数が高くなる傾向にあります。これは分子量が大きいほど温度変化に対する分子鎖の広がりの変化が大きいことに起因しています。
VIIのポリマーは、実使用中、機械のしゅう動部分(エンジン内のピストンとシリンダー壁のすり合わせ部分など)やギアによるかみ合わせの部分で生じる機械的圧力や摩擦などの大きな力(せん断力)によって、徐々に分子鎖が切断されます。せん断安定性は、せん断力の大きい駆動系油用で特に重要です。
せん断安定性は分子鎖切断による潤滑油の粘度低下の割合で評価され、粘度低下率が低いほど優れています。せん断は分子量が大きいほど強く受ける傾向にあります。分子量が小さくなれば、せん断安定性は向上しますが、粘度指数は低くなるため、分子量は目標性能に応じて最適化する必要があります。
駆動系油用:ギアのかみ合わせなどで非常に大きなせん断力がかかるため、分子量の小さなポリマーを使用することが多い
エンジン油:(駆動系油と比べて)かかるせん断力が小さいため、分子量の大きなポリマーを使用することが多い
優れたせん断安定性、粘度指数向上作用を発揮するので、耐久性・省燃費性に優れた自動車用エンジン油の調製に好適です。省燃費エンジン油(ILSAC GF-6認証エンジン油 等)への採用実績があります。
評価項目 | 製品動粘度 | 添加量*1 | HTHS粘度*1 *2 | 添加動粘度*1 *3 | 粘度指数*1 *4 | ||
---|---|---|---|---|---|---|---|
評価条件 | 100℃ | 150℃ | 100℃ | 100℃ | 40℃ | ||
mm2/s | % | mPa・s | mPa・s | mm2/s | mm2/s | ー | |
評価基油 | ー | ー | ー | ー | 5.18 | 24.3 | 150 |
アクルーブ V-5130 | 350 | 11.9% | 2.6 | 4.7 | 7.70 | 30.8 | 237 |
アクルーブ V-6010 | 1,200 | 7.6% | 2.6 | 4.89 | 8.13 | 32.1 | 244 |
アクルーブ V-6020 | 390 | 9.9% | 2.6 | 4.89 | 8.13 | 32.1 | 244 |
優れたせん断安定性を有し、粘度指数向上作用や配合油の低温粘度も優れているので、これらの性能が重視されるマルチグレードギヤ油、ATF(自動変速機油)、CVTF(無段変速機油)の調製に好適です。
評価項目 | 製品動粘度 | 添加量*1 | 添加動粘度*1 *2 | 粘度指数 *1 *3 | せん断安定(SS)*1 *4 | -40℃ BF粘度 *1 *5 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
評価条件 | 100℃ | 100℃ | 40℃ | 超音波法(高出力) | |||
mm2/s | % | mm2/s | mm2/s | ー | % | mPa・s | |
評価基油 | ー | ー | 3.07 | 12.35 | 106 | ー | ー |
アクルーブ V-1090 | 630 | 12.3% | 5.00 | 20.4 | 186 | 0.6% | 3,650 |
アクルーブ A-1050 | 520 | 10.7% | 5.00 | 19.2 | 207 | 4.0% | 4,300 |
アクルーブ C813 | 590 | 12.5% | 5.00 | 19.4 | 203 | 2.7% | 4,200 |
アクルーブ C728 | 850 | 9.0% | 5.00 | 18.9 | 212 | 5.9% | 4,000 |
アクルーブ 504 | 850 | 6.2% | 5.00 | 17.8 | 234 | 22.4% | 3,750 |
アクルーブ V-1001 | 360 | 15.7% | 5.00 | 20.0 | 192 | 0.9% | 3,700 |
アクルーブ A-1060 | 350 | 15.6% | 5.00 | 19.0 | 211 | 2.4% | 3,400 |
アクルーブ V-4131 | 850 | 11.9% | 5.00 | 16.3 | 270 | 19.3% | 3,000 |
優れたせん断安定性を有し、粘度指数向上作用や配合油の低温粘度も優れているので、これらの性能が重視されるマルチグレードギヤ油の調製に好適です。
評価項目 | 製品動粘度 | 添加量*1 | 添加動粘度*1 *2 | 粘度指数 *1 *3 | せん断安定性(SS)*1 *4 | |
---|---|---|---|---|---|---|
評価条件 | 100℃ | 100℃ | 40℃ | 超音波法(高出力) | ||
単位 | mm2/s | % | mm2/s | mm2/s | ー | % |
評価基油 | ー | ー | 6.55 | 36.8 | 133 | ー |
アクルーブ 812 | 510 | 19.5% | 16.5 | 96.3 | 186 | 7.8% |
アクルーブ 806T | 260 | 23.0% | 16.5 | 95.2 | 188 | 6.9% |
アクルーブ 845 | 640 | 18.2% | 16.5 | 91.2 | 196 | 12.6% |
優れた粘度指数向上作用を有し、せん断安定性や流動点降下作用も優れており、これらの 性能が重視される高粘度指数作動油やショックアブソーバー油などの作動油の調整に好適です。
評価項目 | 製品 動粘度 | 添加量*1 | 添加動粘度*1 *2 | 粘度指数*1 | 流動点 *1 | せん断安定性 (SS)*1 | |
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評価条件 | 100℃ | 100℃ | 40℃ | 超音波法(高出力) | |||
mm2/s | % | mm2/s | mm2/s | ー | ℃ | % | |
評価基油 | ー | ー | 5.15 | 25.9 | 132 | -17.5 | ー |
アクルーブ 845 | 640 | 4.6% | 6.64 | 32.0 | 170 | -47.5 | 4.4% |
アクルーブ C728 | 850 | 5.6% | 6.69 | 32.0 | 173 | -45.0 | 4.2% |
アクルーブ H836 | 720 | 4.1% | 6.72 | 32.0 | 174 | -47.5 | 8.6% |
アクルーブ V-3040 | 1,600 | 3.6% | 6.67 | 32.0 | 172 | -47.5 | 8.3% |
低粘度から高粘度グレードまでの基油に対して良好な流動点降下作用を示します。エンジン油、ギヤ油、ATF(自動変速機油)、油圧作動油など広範囲の潤滑油の調整に好適です。
評価項目 | 製品動粘度 | 添加量*1 | 流動点*1 *2 | ||||
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評価条件 | 100℃ | Gr.Ⅰ-100N | Gr.Ⅰ-150N | Gr.Ⅰ-500N | Gr.Ⅲ-100N | Gr.Ⅲ-150N | |
単位 | mm2/s | % | ℃ | ℃ | ℃ | ℃ | ℃ |
評価基油 | ー | ー | -12.5 | -12.5 | -10.0 | -15.0 | -12.5 |
アクルーブ 132 | 380 | 0.1% | -27.5 | -30.0 | -20.0 | -32.5 | -32.5 |
0.5% | -37.5 | -37.5 | -25.0 | -40.0 | -40.0 | ||
アクルーブ 138 | 470 | 0.1% | -27.5 | -32.5 | -17.5 | -35.0 | -32.5 |
0.5% | -37.5 | -40.0 | -27.5 | -42.5 | -40.0 | ||
アクルーブ 146 | 300 | 0.1% | -30.0 | -25.0 | -12.5 | -32.5 | -35.0 |
0.5% | -40.0 | -37.5 | -22.5 | -45.0 | -42.5 | ||
アクルーブ P-4300 | 300 | 0.1% | -20.0 | -20.0 | -12.5 | -35.0 | -30.0 |
0.5% | -32.5 | -30.0 | -20.0 | -35.0 | -35.0 | ||
アクルーブ 160 | 550 | 0.1% | -27.5 | -30.0 | -12.5 | -35.0 | -32.5 |
0.5% | -40.0 | -37.5 | -25.0 | -40.0 | -37.5 |
本品を取り扱うにあたっては、本品および副資材(化学品)の「安全データシート」(SDS)を事前に必ずお読みください。なお、SDSはこちらからも入手できます。 https://www.sanyo-chemical.co.jp/products/sds/
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