まず、界面とは異なった性質を持つ2つの物質の間に存在する境界面のことで、液体と固体、液体と液体、液体と気体の間に界面が存在します。
この界面において洗浄や乳化、分散、湿潤、浸透などの機能を発揮して性能を高めるのが界面活性剤です。
界面 = 異なった性質を持つ2つの物質の間に存在する境界面
液体と固体 : コップとコーヒー、機械と潤滑油
液体と液体 : 水と油
液体と気体 : 海水と大気、シャボン玉
界面活性剤の役割例
洗浄 ・・・ 汚れを落とす
乳化・分散 ・・・ 混ざり合わないものを混ざりやすくする
湿潤・浸透 ・・・ 濡れやすく、しみ込みやすくする
・界面活性剤は分子中に親油基(油になじむ部分)と親水基(水になじむ部分)という異なる性質を持つ構造を有しています。
・界面活性剤には親水基の構造によって、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性系(アニオンとカチオンを両方有する)4つに大別されます。
界面活性剤の種類 | 特徴 | 主な用途 | 組成例 |
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ノニオン界面活性剤 (非イオン界面活性剤) |
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アニオン界面活性剤 |
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カチオン界面活性剤 |
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両性界面活性剤 |
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界面活性剤の機能紹介動画の構成
0:00 界面活性剤の機能紹介
0:21 パート① 洗浄性(布の洗浄実験)
1:05 パート② 浸透性(疎水性繊維への浸透性付与の実験、不織布への浸透性付与の実験)
2:15 パート③ 分散性(無機顔料の分散実験)
3:00 パート④ 起泡性(起泡剤添加の実験)
3:25 パート⑤ 消泡性(消泡剤添加の実験)
3:44 パート⑥ 平滑性(シートベルトの平滑性テスト)
4:25 パート⑦ 抗菌性(抗菌剤添加の実験)
非イオン界面活性剤は界面活性剤のなかでもっとも大量に使用され、その原料であるエチレンオキシドなどは大量に安定して供給されています。
非イオン界面活性剤は水中でイオン解離しない水酸基(-OH)やエーテル結合(-O-)などを親水基としてもっている界面活性剤のことです。
しかし、水酸基やエーテル結合は水中でイオン解離しないために親水性はかなり弱いので、それひとつだけで大きな疎水基を水に溶解させる力はありません。そのため、これらの基がいくつか集まってやっと一人前の親水性を発揮します。この点がたった1個の親水基で十分な親水性を発揮するアニオン界面活性剤やカチオン界面活性剤と大いに異なるところです。
非イオン界面活性剤を親水基の種類によって分類すれば、ポリエチレングリコール型と多価アルコール型とに区分して考えることができます。
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤というのは、疎水基原料に親水基としてエチレンオキシドを付加させてつくられる非イオン界面活性剤のことです。
図 ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の例
多価アルコール型非イオン界面活性剤というのは、グリセリンやペンタエリスリトール、ソルビトールなどのような多価アルコールに高級脂肪酸のような疎水基を結合させたもので、疎水基に水酸基が複数結合した形をしており、これが親水性を与える非イオン界面活性剤のことです。
図 多価アルコール型非イオン界面活性剤の例
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤をさらに細かく分類する場合は疎水基の種類によって行われ、これに反して多価アルコール型非イオン界面活性剤の場合には、親水基である多価アルコールの種類によって行われます。この分類を下表に示します。
ポリエチレングリコール型 | ポリオキシエチレンアルキルエーテル(高級アルコールEO付加物) |
ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル(アルキルフェノールEO付加物) | |
ポリオキシエチレン脂肪酸エステル (脂肪酸EO付加物、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル) | |
ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル (多価アルコール脂肪酸エステルEO付加物) | |
ポリオキシエチレンアルキルアミン(高級アルキルアミンEO付加物) | |
ポリオキシエチレン脂肪酸アミド(脂肪酸アミドEO付加物) | |
ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール (ポリプロピレングリコールEO付加物) | |
その他 | |
多価アルコール型 | グリセリン脂肪酸エステル |
ペンタエリスリトール脂肪酸エステル | |
ソルビトールおよびソルビタン脂肪酸エステル | |
しょ糖脂肪酸エステル | |
アルキルポリグリコシド | |
脂肪酸アルカノールアミド | |
その他 |
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤は、反応しやすい水素原子をもった疎水基原料にエチレンオキシド(EO:ethylene oxide)を付加させてつくられる界面活性剤です。
反応しやすい水素原子というのは、具体的には水酸基(ーOH)、カルボキシル基(一COOH)、アミノ基(ーNH2)あるいはアミド基(ーCONH2)などの水素原子のことです。上記のような原子団と結合している疎水基はエチレンオキシドと反応させてポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤にすることができます。たとえば、水酸基をもつ高級アルコールは次のように反応してEO付加物になります。
図 高級アルコールとエチレンオキシドの反応
このような反応しやすい水素原子をもった疎水基原料としては、現在、次のようなものが比較的多く使用されています。これらのうち、とくに高級アルコールは重要な原料です。一方、アルキルフェノールには内分泌かく乱作用があることが明らかとなって以降、使用されなくなってきています。
疎水性原料の分類 | 化合物の例 |
---|---|
高級アルコール: R-OH | ラウリルアルコール: C12H25-OH |
アルキルフェノール: | ノニルフェノール: |
高級脂肪酸:R-COOH | オレイン酸:C17H33-COOH |
高級アルキルアミン:R-NH2 | ステアリルアミン:C18H37ーNH2 |
高級脂肪酸アミド:RーCONH2 | オレイン酸アミド:C17H33-CONH2 |
ポリエチレングリコール鎖が親水性を示すのは、その鎖中のエーテル結合の酸素原子に水がゆるく結合するからです。
エーテル結合が水分子と水素結合すると、周囲をとりまく水分子から見ても同類に見えてくるので水に溶けやすくなります。これが親水性を生じる理由です。
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の水溶液においては、エーテル結合の部位に水分子が水素結合によってゆるくくっついています。そのため、温度が上がったり、塩類が溶けこんできたりすると、水分子との水素結合が徐々にはずれていく傾向があります。
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の水溶液を加熱して徐々に温度を上昇させていくと、結合している水分子がそれに応じて徐々に外れていくので、親水性は徐々に減少し、ついに界面活性剤は水中に溶けていられなくなって析出し、初め透明だった溶液は白濁したエマルションになってしまいます。
このように、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の透明な水溶液を徐々に加熱していったとき、急に全体が白濁してその界面活性剤が細かい液滴になって析出してくるときの温度のことを曇点と呼びます。
疎水基原料が同一であればエチレンオキシドの付加モル数が増加して親水性が増大するにつれて曇点も上昇するので、この曇点をその非イオン界面活性剤の親水性を表す数値として利用することができます。
曇点というものは、疎水基の強さに比べて、それに結合しているポリエチレングリコール部分の親水性がどれくらい強いかということを示すものとして理解することができます。
界面活性剤の効果は、元来、疎水基と親水基の両者の相反する性質のつりあいから生じてくるので、このつりあいの程度を示す曇点はポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の性質を決定するもっとも重要な数値であるといえます。
実際、この種の界面活性剤の品質管理や、使用上の目安などは、この曇点を測定することによって行われます。たとえば、使用温度付近の曇点を有するものが浸透性がすぐれているなどのことが一般に認められています。ただし、塩類や水酸化ナトリウムなどのアルカリが存在すると曇点はいちじるしく低下するので、このような場合は使用条件で曇点を測定して判断する必要があります。
アルキルフェノールのフェノール性水酸基や、高級アルコールのアルコール性水酸基にエチレンオキシドを付加させることにより、非イオン界面活性剤が得られます。これらは疎水基と親水基がエーテル結合(ーOー)で連結されているので、ポリエチレングリコールエーテル型非イオン界面活性剤とも呼ばれます。この型のものは酸やアルカリによって分解することがほとんどありません
アルキルフェノールEO付加物としてはノニルフェノール、ドデシルフェノール、オクチルフェノール、オクチルクレゾールなどのEO付加物が知られています。
そのなかでノニルフェノールEO付加物は洗浄力、浸透力、乳化力などのいずれの性能においてもすぐれるため、これまではポリエチレングリコールエーテル型非イオン界面活性剤のなかで中心的存在でした。
しかし、アルキルフェノールには内分泌かく乱作用があることが明らかになり、アルキルフェノールEO付加物については代替界面活性剤への転換が進み、その使用量は減少しています。
現在市販されているポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤では、高級アルコールにエチレンオキシドを付加したものが大半を占めています。疎水基原料となる高級アルコールは動植物油脂やろうから得られる天然アルコールと、石油からつくられる合成アルコールに2大別されます。
高級アルコールは各種の炭素数の混合物として使用されることが多くあります。
天然アルコールは、一般的に価格の変動が大きいため、一時期合成アルコールに置き換えられる方向にありましたが、ここにきて環境問題などの観点から使用が増えつつあります。界面活性剤原料としては、ごく一般的にいえば、C16~C18よりもC12~C14のアルコールのほうがより適しているといえます。
やし油をメタノールでエステル交換し、生成したやし油脂肪酸メチルを還元して得られる、やし油還元アルコール(C12~C14)が飽和天然アルコールとしてもっとも代表的です。
不飽和アルコールには、それぞれパーム油とオリーブ油から同様な方法で得られるパーム油アルコールおよびオリーブ油アルコールなどがあります。両者はオレイルアルコール(CI8二重結合1)とセチルアルコール(C16)などの混合物です。
牛脂脂肪酸メチルを水添して得られる牛脂還元アルコール(C16~C18)や、マッコー鯨油を水添して得られるマッコー(抹香)アルコール(C16-C18二重結合1)も使用されていましたが、動物性原料使用の回避や、鯨資源保護の観点から今ではほとんど使用されなくなっています。
合成アルコールには、天然アルコールと同一の組成をもつチーグラーアルコール、メチル分岐をもつ成分を含むオキソアルコール、分子の中ほどに水酸基がついているセカンダリーアルコールなどがあります。いずれも安価で供給が安定しているので広く使用されています。
チーグラー法によってエチレンを重合させるプロセスを経てつくられます。飽和の天然アルコールとまったく同一の化学構造(直鎖第一級アルコール)を有しています。
オレフィンに一酸化炭素と水素を反応させると、炭素数の1つ多い第一級アルコールが得られます(オキソ法)。原料オレフィンにプロピレンの3量体、4量体などの分岐鎖オレフィンを使用した特殊なものもありますが、主流は直鎖α-オレフィンを使用するもので、天然アルコールと同じ直鎖第一級アルコールが主成分で、分岐第一級アルコールも混在しています。
パラフィンを空気酸化してつくられます。水酸基が炭素鎖の末端以外にランダムについています(直鎖第二級アルコール)。通常、エチレンオキシド3モル付加物として販売されています。エチレンオキシドを付加しないままだと、通常の反応条件ではエチレンオキシドが均一に付加しないためです。
ポリエチレングリコールエーテル型非イオン界面活性剤(高級アルコールEO付加物およびアルキルフェノールEO付加物)とアニオン界面活性剤との比較を下表に示します。
特性 | アニオン界面活性剤 | ポリエチレングリコールエーテル型非イオン界面活性剤 |
---|---|---|
起泡性* | 一般に大 | 一般に小(工業的に有利) |
浸透性* | ジオクチルスルホこはく酸エステル塩程度のものが最高 | ジオクチルスルホこはく酸エステル塩と同等あるいはより以上のものがつくれる |
洗浄性* | 中程度のものがふつう | 大きいものが容易につくれる |
乳化性・分散性* | かなりすぐれたものあり | EOの付加モル数を変えてあらゆる方面に適したものを自由につくれる |
染色助剤としての性能 | 酸性染料などの均染剤 | インダンスレン染料や錯塩酸性染料などの均染剤 |
低濃度での効能* | cmcが高いので低濃度では急に性能が低下する | cmcが低いのでかなり低濃度でも十分な性能を示す |
製品の状態* | 多くはペースト状、一部粉末状 | 容易に液状製品にできる(使用に便利) |
曇点 ℃ | 表面張力 mN/m | 浸透力 sec | 洗浄力 % | 起泡度 mm | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
直後 | 5分後 | ||||||
合成アルコール | セカンダリーアルコール EO9モル付加物 | 61 | 30 | 2.0 | 28 | 127 | 70 |
チーグラーアルコール EO7モル付加物 | 60 | 30 | 3.9 | 32 | 103 | 101 | |
オキソアルコール EO8.5モル付加物 | 63 | 30 | 2.0 | 29 | 115 | 101 | |
天然アルコール | やし油還元アルコール EO7モル付加物 | 61 | 32 | 4.2 | 28 | 114 | 109 |
オレイルアルコール EO7モル付加物 | 61 | 34 | 13.5 | 26 | 72 | 71 | |
アルキルフェノール | ノニルフェノール EO10モル付加物 | 64 | 31 | 2.0 | 30 | 99 | 92 |
脂肪酸にもアルカリ触媒でエチレンオキシドを付加させることができます。この種のものは、反応式からわかるように、疎水基と親水基がエステル結合(ーCOOー)で連結されているので、ポリエチレングリコールエステル型非イオン界面活性剤と呼ばれることがあります。
図 脂肪酸のEO付加物
エステル結合は加水分解に弱いので、この型のものは強いアルカリ性の浴で使用すると分解して石けんになってしまうおそれがあります。この型のものの製造は先記のようにエチレンオキシドの付加によっても行われますが、脂肪酸とポリエチレングリコールとを直接エステル化させても容易に製造することができます。
ポリオキシエチレン脂肪酸エステルは高級アルコールあるいはアルキルフェノールEO付加物に比べて一般に浸透力や洗浄力は劣るようです。したがって、主として乳化分散剤、繊維用油剤(紡績用、仕上げ用)、あるいは染色助剤などとして使用されます。
図 ポリエチレングリコールラウリン酸エステル
油溶性乳化剤としての特徴を強めるために、オリーブ油のような油脂にポリエチレングリコールを加えてアルカリ触媒でエステル交換反応を行わせて、ポリエチレングリコールモノオレイン酸エステルとグリセリンモノオレイン酸エステルとの混合物にしたものも広く使用されています。
しかし、多くは配合原料として使用されるので市販はされていません。
ポリエチレングリコールエステル型非イオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコールモノ脂肪酸エステルのほかにポリエチレングリコールジ脂肪酸エステルがあります。
これらジエステル型のものは、きわめて低起泡性なので、消泡剤や低起泡性乳化剤などとして使用されることが多くあります。
高級アルキルアミンあるいは脂肪酸アミドにもアルカリ触媒でエチレンオキシドを付加させることができます。
高級アルキルアミンはとくにエチレンオキシドと反応しやすいので、無触媒でも反応させることができます。その場合には、まず窒素原子に2モルのエチレンオキシドが完全に付加したあとにポリエチレングリコール鎖が生長します。この型のものは非イオン界面活性剤とカチオン界面活性剤の中間的な性質をもっているので染色助剤などとして使用されます。
図 高級アルキルアミンエチレンオキシド付加物
脂肪酸アミドはエチレンオキシドと比較的反応しにくく、通常次式のように反応するといわれていますが、実際には複雑な反応物の混合物になっています。通常の合成法では反応中に交換反応が起こり、エステル結合とアミド結合が入れかわるので、次のような化合物も一部生成し、いくぶんカチオン的な性質を帯びた非イオン界面活性剤になります。この種のものは特殊な用途に用いられ、使用量は比較的少なくなっています。
図 脂肪酸アミドエチレンオキシド付加物
エチレンオキシドによく似た化合物にプロピレンオキシドという化合物があります。
プロピレンオキシドはエチレンオキシドと同じように付加反応します。しかし、その重合物であるポリプロピレングリコールは水溶性が小で、分子量数百のものまでは水に溶けますが、それ以上の分子量のものは水に溶けません。そのため、ポリプロピレングリコールの分子量1,000~2,500くらいのものは疎水基原料として適しています。
ポリプロピレングリコールにエチレンオキシドを付加させた非イオン界面活性剤は、最初米国のワイアンドット社から“プルロニック”(Pluronic)という商品名で各種のものが発売されたので、プルロニック型非イオン界面活性剤と呼ばれています。
プルロニック型非イオン界面活性剤は、次式に示すように、疎水基を中にはさんで両端に親水基が位置した変わった形をしています。また、この型のものは分子量が数千もあるので、ふつうの界面活性剤(分子量は数百)に比してかなり高分子量であるため、高分子型界面活性剤として分類されることもあります。
プルロニック型非イオン界面活性剤は分子量あるいは分子の形から見て浸透剤としてあまり期待はできませんが、特別に低起泡性の洗剤、乳化分散剤、ビスコース原液添加剤などとしての特徴が認識されて、特殊な方面で使われています。
図 プルロニック型非イオン界面活性剤の構造
多価アルコールというのは、たとえばグリセリンやペンタエリスリトール、ソルビトールのように、1分子中にたくさんのアルコール性水酸基をもった有機化合物のことです。
図 多価アルコールの例
多価アルコール型非イオン界面活性剤は繊維用油剤あるいは乳化剤などの配合基剤として重要な界面活性剤であって、多くの応用製品のなかに含まれています。
多価アルコールはたくさんの水酸基をもっていて水によく溶けるので、これに脂肪酸のような疎水基を結合させると多価アルコール型非イオン界面活性剤が得られます。
また、-OH基のほかに-NH2基あるいは>NH基をもつアミノアルコール類(たとえばジエタノールアミン)や一CHO基をもつ糖類(たとえばグルコース)などに疎水基をくっつけた非イオン界面活性剤も多価アルコール型によく似ているので、本項では一括して多価アルコール型非イオン界面活性剤と呼ぶことにします。
多価アルコール型非イオン界面活性剤の親水基原料の主なものを下表に示します。これらのうち、グリセリン、ペンタエリスリトール、ソルビタンおよびジエタノールアミンなどがとくに重要です。疎水基原料としては脂肪酸がもっとも多く使用されます。
下表にみられるように、多価アルコール型非イオン界面活性剤は水に溶解しないものが多く、大部分は水中に乳化分散する程度の親水性しかもっていません。したがって、洗剤や浸透剤として使用されることは少なくなっています。
名称 | 化学式 | 脂肪酸エステルまたはアミドの水溶性 | |
---|---|---|---|
多価アルコール類 | グリセリン OH基数=3 |
不溶 自己乳化性あり |
|
ペンタエリスリトール OH基数=4 |
不溶 自己乳化性あり |
||
ソルビトール OH基数=6 |
不溶ー難溶 自己乳化性あり |
||
ソルビタン OH基数=4 |
不溶 自己乳化性あり |
||
アミノアルコール類 | モノエタノールアミン | 不溶 | |
ジエタノールアミン | 1:2類は可溶 1:1類は難溶 |
||
糖類 | しょ糖 OH基数=8 |
可溶~難溶 |
多価アルコールエステルの外観は原料の油脂あるいは脂肪酸によく似ていて淡黄色の固体ですが、ウオーターバスの上で溶かしておいて熱湯を少しずつ加えながら練っていくと乳化する点が特徴です。グリセリンエステルもペンタエリスリトールエステルも乳化剤あるいは繊維用油剤(紡績油剤あるいは柔軟剤)の配合原料として広く使用されていますが、細かい点については両者の性質に差があります。
グリセリンモノラウリン酸エステルあるいはグリセリンモノステアリン酸エステルは安全性が高いので食品や化粧品の乳化剤として広く用いられ、とくに純度の高いものを製造する技術が発達しています。また、繊維用油剤としても用いられるが、柔軟剤としての特徴は少ないので、比較的特殊な用途に限られています。
図 グリセリンモノラウリン酸エステル
ペンタエリスリトールステアリン酸エステルなどは、乳化剤としても使用されますが、人絹、スフ、綿などに対する柔軟性がすぐれているために繊維用油剤の配合基剤として広く用いられています。
図 ペンタエリスリトール脂肪酸エステルの例
ソルビトールはグルコース(ぶどう糖)を水素で還元してつくられる甘味のある多価アルコールで、水酸基を6個ももっています。
ソルビトールは分子中にアルデヒド基がないので、グルコースに比べて熱や酸素に安定で、脂肪酸と反応させるときに分解したり着色したりする心配がありません。
ソルビトールエステルは繊維柔軟剤には適していますが、一般的なW/O型乳化剤としてはあまりすぐれた作用を示しません。
図 ソルビトールの脂肪酸エステルの例
ソルビトールは適当な条件で(たとえば酸性で加熱)処理すると分子内で1分子脱水したソルビタンになり、続いてさらにもう1分子脱水したソルバイドになります。
図 ソルビトールの脱水縮合反応
ソルビタンは水酸基を4個もつ多価アルコールですが、ソルビトールが脱水するときに反応する水酸基の位置によっていろいろな異性体ができます。したがって、ふつうにソルビタンと呼ばれるものは各種のソルビタンの混合物であって、単一の組成を有した化合物ではありません。ソルバイドはさらに脱水しているので水酸基を2個しかもっていません。実際にソルビトールを脱水反応させると、上に示したような反応が複雑に起こってたくさんの化合物の混合物ができます。したがって、これらソルビトール脱水生成物を一括してアンヒドロソルビトール類と呼ぶことがあります。
ソルビトールのエステル化反応を230~250℃で行うと、ソルビトールの分子内脱水(ソルビタン化)も同時に起こるので、適当な時間で反応を止めると、ソルビタンのモノパルミチン酸エステルを1工程で得ることができます。
さらに反応を続けて、分子内脱水を進めると、ソルバイドエステルを主成分とした生成物を得ることができます。
図 ソルビタンエステルの合成例
ソルビタンエステルは乳化剤としても繊維用油剤としてもすぐれた性能をもっています。
ソルビタンエステル型の非イオン界面活性剤は最初米国のアトラス社が種々の品種をそろえて"スパン"(Span)という商品名をつけて発売したので、スパン型の非イオン界面活性剤と呼ばれるくらい有名です。
これらソルビタンエステル類は主に乳化剤として用いられますが、それ自身水にほとんど溶けないので単独で用いられることは少なく、よく水に溶ける他の界面活性剤と配合して用いることによってすぐれた溶解力を発揮します。
ソルビタンエステルに配合するための水によく溶ける乳化物は種々のものが使用されますが、その1つにソルビタンエステルにエチレンオキシドを付加させてつくられた"ツイーン"(Tween)という商品名の非イオン界面活性剤があります。
図 ソルビタンの脂肪酸エステルのエチレンオキシド付加物
多価アルコール型非イオン界面活性剤のうち、水酸基を3個、4個あるいは6個もつ親水基原料の脂肪酸エステルは水にほとんど溶解しませんが、たくさんの水酸基をもった親水性原料を用いれば水溶性の製品をつくることができます。
しょ糖(通称砂糖)はよく知られているように水酸基を8個ももっている親水基の高い原料となります。
しょ糖のモノ脂肪酸エステルは水に透明に溶解し、低起泡性の洗剤や乳化剤として有用です。しょ糖エステルは無味無臭であり、最大の特徴は、安全性の高い物質で、食品添加剤や医薬方面に使える点にあります。
しょ糖の脂肪酸モノエステル | 表面張力 mN/m | |
---|---|---|
0.1%溶液 | 1.0%溶液 | |
モノラウリン酸エステル | 33.7 | 33.4 |
モノミリスチン酸エステル | 34.8 | 33.1 |
モノパルミチン酸エステル | 33.7 | 33.7 |
モノオレイン酸エステル | 31.5 | 31.8 |
モノステアリン酸エステル | 34.0 | 33.5 |
ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム | 29.4 | 31.0 |
アルキルポリグリコシドは、単糖もしくは2~3モルの単糖からなるオリゴ糖がアルキル基と結合したもので、グルコースを例にとると下図のような構造を有しています。
この型の界面活性剤の特徴として、生分解性や生体への適合性にすぐれること、洗浄力や乳化力、起泡力が高いことがあげられます。
多価アルコールや糖の脂肪酸エステルは加水分解に弱いという欠点があります。このエステル結合のかわりにアミド結合で連結されたものは加水分解にも強い界面活性剤となります。アミノ基と水酸基をもつ化合物と脂肪酸を結合させたアミド結合をもつ多価アルコール型の非イオン界面活性剤が多く合成されています。
図 脂肪酸アルカノールアミド
多価アルコールや糖の脂肪酸エステルは加水分解に弱いという欠点があります。このエステル結合のかわりにアミド結合で連結されたものは加水分解にも強い界面活性剤となります。アミノ基と水酸基をもつ化合物と脂肪酸を結合させたアミド結合をもつ多価アルコール型の非イオン界面活性剤が多く合成されています。
このようなアミド結合をもつ多価アルコール型非イオン界面活性剤のうちで、もっとも著名なのがアルカノールアミンと脂肪酸の縮合によって合成される脂肪酸アルカノールアミドです。
脂肪酸アルカノールアミドは米国のナイノール社により最初に発売されたため“ナイノール型洗剤”とも呼ばれていました。
これはラウリン酸またはやし油脂肪酸1モルとジエタノールアミン2モルとを脱水縮合させた製品です。
この式からみると、ジエタノールアミンが1モル余分に残るように思われますが、実際にはこの余分のジエタノールアミンが生成したラウリン酸ジエタノールアミドがゆるく結合しているので得られる脂肪酸アルカノールアミドは非常に水溶性が良好です。
脂肪酸1モルに対しジエタノールアミン2モルの比率で製造されるところから1:2型脂肪酸ジエタノールアミドとも呼ばれています。
図 1:2型脂肪酸アルカノールアミド(ナイノール型洗剤)
上記の1:2型脂肪酸アルカノールアミドの洗浄力増強作用や泡安定化作用は、その主成分である脂肪酸アルカノールアミドによって生じるものであって、2モル目のジエタノールアミンにはほとんど関係がありません。したがって、水溶性の大きい洗剤、たとえばドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどに泡安定剤として加える場合には、単に水溶性を与えるために入っている余分のジエタノールアミンは不必要と言えます。
このような観点から配合用として生産されたのが2モル目のジエタノールアミンを除いた1:1型脂肪酸ジエタノールアミドです。やはり脂肪酸としてはラウリン酸ややし油脂肪酸が用いられますが、反応をうまく進行させるために通常はメチルエステルにして用いられます。
このものは純度が高く、経済的なので、洗剤の配合基剤として広く使用されています。また、モノエタノールアミンやモノイソプロパノールアミンからも1:1型のアルカノールアミドがつくられ、同様の目的に使用されています。
図 1:1型脂肪酸ジエタノールアミド
ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤には水によく溶けるものが多く、主に洗剤、染色助剤、乳化剤として使用され、
多価アルコール型非イオン界面活性剤は水に溶けないものが多く、主に繊維用柔軟剤、乳化剤として使用されます。
非イオン界面活性剤を例にとって疎水基原料および親水基原料によって分類してみると下表のようになります。
疎水基原料\親水基原料 | エチレンオキシド | ポリエチレングリコール |
---|---|---|
高級アルコール | ポリエチレングリコールエーテル (洗剤、乳化剤) | ー |
アルキルフェノール | ポリエチレングリコールエーテル (洗剤、乳化剤) | ー |
脂肪酸 | ポリエチレングリコールエステル (乳化剤、油剤) | 左に同じ |
高級アルキルアミン | (染色助剤など) | ー |
脂肪酸アミド | (特殊用途) | ー |
油脂 | (乳化剤、特殊用途) | (乳化剤) |
ソルビタンの脂肪酸エステル | ツイーン (乳化剤) | ー |
\親水基原料 疎水基原料 |
グリセリン | ペンタエリスリトール | ソルビトール、 ソルビタンなど |
しょ糖 | アルカノールアミン |
---|---|---|---|---|---|
脂肪酸 | グリセリン モノ脂肪酸エステル |
多価アルコール エステル (油剤) |
多価アルコール エステル (乳化剤、油剤) |
しょ糖 エステル (洗剤、乳化剤) |
アルカノールアミド (洗剤、泡安定剤) |
油脂 | グリセリン モノ脂肪酸エステル (乳化剤、油剤) |
混合多価アルコール エステル (油剤) |
ー | ー | (特殊用途) |
この表に示す原料のうち、エチレンオキシドは石油化学の発達によって安価に生産されます。また、高級アルコールも天然物由来のもののほかに多種類の合成品が市場に出現しています。
さらに、ポリエチレングリコール型非イオン界面活性剤の性能の優秀さと多用途性とをあわせ考えると、この種のものは今後ますます重要性が増大するように思われます。
なお、上表にまとめたもののほかに、疎水基原料として高級アルキルメルカプタン(R-SH)、あるいは親水基原料としてジペンタエリスリトールやポリグリセンなどもありますが、本項では省略しています。
参考文献:藤本武彦著『界面活性剤入門』三洋化成工業(2014)
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①すべての化学品には未知の有害性がありうるため、取り扱いには細心の注意が必要です。本品の適性に関する決定は使用者の責任において行ってください。
②この情報は、細心の注意を払って行った試験に基づくものですが、実際の現場結果を保証するものではありません。個々の使用に対する適切な使用条件や商品の適用は、使用者の責任においてご判断ください。
③この情報は、いかなる特許の推薦やその使用を保証するものではありません。