まず、界面とは異なった性質を持つ2つの物質の間に存在する境界面のことで、液体と固体、液体と液体、液体と気体の間に界面が存在します。
この界面において洗浄や乳化、分散、湿潤、浸透などの機能を発揮して性能を高めるのが界面活性剤です。
界面 = 異なった性質を持つ2つの物質の間に存在する境界面
液体と固体 : コップとコーヒー、機械と潤滑油
液体と液体 : 水と油
液体と気体 : 海水と大気、シャボン玉
界面活性剤の役割例
洗浄 ・・・ 汚れを落とす
乳化・分散 ・・・ 混ざり合わないものを混ざりやすくする
湿潤・浸透 ・・・ 濡れやすく、しみ込みやすくする
・界面活性剤は分子中に親油基(油になじむ部分)と親水基(水になじむ部分)という異なる性質を持つ構造を有しています。
・界面活性剤には親水基の構造によって、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性系(アニオンとカチオンを両方有する)4つに大別されます。
界面活性剤の種類 | 特徴 | 主な用途 | 組成例 |
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ノニオン界面活性剤 (非イオン界面活性剤) |
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アニオン界面活性剤 |
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カチオン界面活性剤 |
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両性界面活性剤 |
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界面活性剤の機能紹介動画の構成
0:00 界面活性剤の機能紹介
0:21 パート① 洗浄性(布の洗浄実験)
1:05 パート② 浸透性(疎水性繊維への浸透性付与の実験、不織布への浸透性付与の実験)
2:15 パート③ 分散性(無機顔料の分散実験)
3:00 パート④ 起泡性(起泡剤添加の実験)
3:25 パート⑤ 消泡性(消泡剤添加の実験)
3:44 パート⑥ 平滑性(シートベルトの平滑性テスト)
4:25 パート⑦ 抗菌性(抗菌剤添加の実験)
通常、両性界面活性剤というときにはアニオンとカチオンを組み合わせた界面活性剤を指します。言い換えると疎水基にカチオン(陽イオン)とアニオン(陰イオン)の両方が結合している界面活性剤(右図の(1))です
広い意味での両性界面活性剤というときには、アニオン、カチオンおよび非イオン界面活性剤のうちどれか2つの性質を兼ね備えた構造を有する界面活性剤を指すこともあります)
アニオン界面活性剤は石けんをはじめ家庭用洗剤の大部分を占めていますし、カチオン界面活性剤は消毒用の殺菌剤とかナイロンなど合成繊維の柔軟仕上剤などとしてかなり身近に使用されています。両性界面活性剤には身近な例としてどんなものがあるでしょうか?
両性界面活性剤は化粧品、とくにシャンプーの成分としては欠かせない界面活性剤です。よく使用されているものとしてはやし油脂肪酸とジメチルアミノプロピルアミンのアミド化物をベタイン化したやし油脂肪酸アミドプロピルベタインがあります。
(1)アニオンとカチオンの組み合わせ(狭義の両性界面活性剤)
(2)アニオンと非イオンの組み合わせ
(3)カチオンと非イオンの組み合わせ
図 広義の両性界面活性剤
図 レシチンの構造
卵黄中にあるレシチンは天然の両性界面活性剤であって、マヨネーズをつくるのになくてはならない存在です。
レシチンはりん酸エステル塩型のアニオン部分と第四級アンモニウム塩型のカチオン部分をもつ両性界面活性剤です。分子中に疎水基が2つもあるので水にはほとんど溶けませんが、油の乳化などには大いにその界面活性を発揮します。
両性界面活性剤には、実用化されている種類こそ多くはありませんが、原理的にはたくさんの種類が存在します。両性はアニオンとカチオンの組み合わせでできるので、少なくともアニオンとカチオンの種類の数を掛け合わせただけは合成できるからです。しかし、多くの場合、カチオン部分としてはアミン塩あるいは第四級アンモニウム塩の親水基が用いられるので、両性界面活性剤を分類するにはアニオン部分の種類で行うのが便利です。
両性界面活性剤のアニオン部分の種類による分類をまとめると以下のようになります。
両性界面活性剤 | カルボン酸塩型両性界面活性剤 | アミノ酸型両性界面活性剤 例:R-NHーCH2CH2COOH |
ベタイン型両性界面活性剤 例: |
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硫酸エステル型両性界面活性剤 | ||
スルホン酸塩型両性界面活性剤 | ||
りん酸エステル型両性界面活性剤 |
しかしながら、上記の分類はあくまで“こんな種類が実験的に知られている”という程度のことを示すだけであって、現在“両性界面活性剤”として市販されているのは大部分がカルボン酸塩型です。そのため、本項ではとくにこのカルボン酸塩型両性界面活性剤を中心に紹介いたします。
カルボン酸塩型両性界面活性剤は、アニオン部分としてカルボキシル基(-COOH)をもっている両性界面活性剤です。そのうち、アミン塩型のカチオン部分をもつものをアミノ酸型両性界面活性剤といい、第四級アンモニウム塩型のカチオン部分をもつものをベタイン型両性界面活性剤と呼びます。以下この2つの型の両性界面活性剤について具体的な製法や性質について述べます。
C12~C18の髙級アルキルアミン、たとえばラウリルアミン(C12H25NH2)1モルを60-70°Cに加熱して溶かしておき、かきまぜながらこれにアクリル酸メチル(CH2=CHCOOCH3)1モルをゆっくり滴下すると発熱しながら反応して次のような化合物ができます。
図 ラウリルアミノプロピオン酸メチルの生成反応(第二級アミン)
生じたラウリルアミノプロピオン酸メチルは第二級アミンです。このため、このままの形で塩酸のような酸で中和して水によく溶けるカチオン界面活性剤にすることができます。
図 ラウリルアミノプロピオン酸メチルの中和反応(カチオン界面活性剤)
ところが、塩酸などで中和しないで、その化合物中のエステル結合をアルカリでけん化するとカルボン酸塩型のアニオン部分が新しく生じ、得られた化合物はアミノ酸型両性界面活性剤となります。
図 ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウムの生成反応(アミノ酸型両性界面活性剤)
このけん化反応により生成したラウリルアミノプロピオン酸のナトリウム塩は水によく溶けて透明な溶液となります。その水溶液はよく泡だち、かなり強いアルカル性を示します。これは、石けんと同じカルボン酸ナトリウムであるうえに、中和されていないアミノ基をもっているからです。
このように、アミノ酸型両性界面活性剤はアルカリ性では、アミノ基部分は塩の形になっていないので親水基としての作用は比較的小さく、カルボン酸塩の部分が親水性を与える主体となっています。このため、この型の両性界面活性剤はアルカリ性ではほとんどアニオン界面活性剤に近い性質を示します。
では、このようなアルカリ性のアミノ酸型両性界面活性剤の水溶液を塩酸などで中和していくとどうなるでしょうか?
かきまぜながら塩酸を少しずつ加えていくと中性あたりまでは大きな変化はありませんが、微酸性のあたりで沈殿が生じてきます。かまわずに塩酸を入れて十分酸性にすると、不思議なことに一度生じた沈殿がまた溶けてしまって透明な溶液になってしまいます。すなわち、ちようど分子内塩をつくるような条件のときには親水性が減じるので沈殿してしまい、もっと塩酸が多くなるとアミノ基の部分が塩酸塩になるので、ほとんどカチオン界面活性剤に近い性質のものになってふたたび溶解してくるのです。
このように、アミノ酸型両性界面活性剤はアルカリ性ではアニオン界面活性剤のように挙動し、酸性ではカチオン界面活性剤のように挙動しますが、ちょうどカチオン性とアニオン性とがバランスする等電点(この場合は微酸性)では親水性が小さくなって沈殿する性質があります。
図 アルカリ性のアミノ酸型両性界面活性剤水溶液の塩酸中和時の挙動
ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウムは洗浄力がかなり大きいので特殊な洗剤などとしての用途があります。そのほかにアルキル基の長さが違うものや、親水基のほうのアミノ基とカルボキシル基の数や位置が異なるものなどがいろいろあって、用途も多様ですが、一般的な性質はだいたい以上の例に示したとおりです。アルキルアミノプロピオン酸型の両性界面活性剤の合成法には上記のほかにアクリロニトリルを用いる方法もあり、このほうがより安価な方法となります。
図 ステアリルプロピオン酸ナトリウムの合成法(アクリルニトリルを用いる方法)
また、アミノ基とカルボキシル基の間のメチレン基(-CH2-)が1個少ない構造のものも、水溶液中で高級アルキルアミンにモノクロロ酢酸ナトリウムを反応させることによって容易につくることができます。この種のアミノ酸型両性界面活性剤のなかには殺菌剤として用いられるものもあり、カチオン性のものに比べて毒性が小さいなどの特長があります。
図 ラウリルアミンとモノクロロ酢酸ナトリウムの反応
ベタイン型両性界面活性剤というのは、第四級アンモニウム塩型のカチオン部分とカルボン酸塩型のアニオン部分とをもっている両性界面活性剤のことです。ベタインは本来左記構造式で示される化合物です。
しかし広い意味では、第四級アンモニウム塩とカルボン酸塩の両基を有する化合物をベタインと呼んでいます。この型の両性界面活性剤でいちばん構造が簡単なのは左図の構造式のもので、Rは炭素数12-18くらいのアルキル基です。
たとえば、ラウリルジメチルアミン1モルとモノクロロ酢酸ナトリウム1モルの水溶液を混合して、60-80℃くらいで数時間かきまぜて反応させるとラウリルジメチルベタインの透明な水溶液が得られます。
図 ラウリルジメチルベタインの生成反応
ラウリルジメチルベタインは水に透明に溶解してよく泡だち、洗浄力もすぐれています。ベタイン型両性界面活性剤の代表と考えて差し支えありません。ベタイン型両性界面活性剤がアミノ酸型両性界面活性剤と比較していちばん違うところは、ベタイン型は酸性でも中性でもあるいはアルカリ性でも水によく溶けるということです。そのため、ベタイン型は等電点でも沈殿の心配がほとんどなく、あらゆるpH域で使用できる利点があります。
図 ジメチルステアリルベタイン、ジヒドロキシラウリルベタイン
ラウリルジメチルベタインと同じような合成方法で種々のベタイン型両性界面活性剤をつくることができます。そのうち重要なものには左図に示すようなジメチルステアリルベタイン、ジヒドロキシエチルベタインが挙げられます。
いずれもラウリルジメチルベタインと同様に、染色助剤あるいは帯電防止剤などとしての用途があります。
シャンプー基剤として広く利用されている両性界面活性剤には、やし油脂肪酸アミドプロピルベタインとラウリルイミダゾリニウムベタインがあります。これらはそれぞれ相当する脂肪酸アミドアミンおよびアルキルイミダゾリンから次式のように合成されます。なお、イミダゾリニウムベタインの構造については、環の開裂などによって複雑な混合物になっています。
図 やし油脂肪酸アミドプロピルベタインの合成経路
図 ラウリルイミダゾリニウムベタインの合成経路
両性界面活性剤といわれるカチオンとアニオンの組み合わせのうちにも、カルボン酸塩型やスルホン酸塩型など色々ありますが、いちばんよく知られているのはカルボン酸塩型で、これにはアミノ酸型とベタイン型の2種があります。アミノ酸型は等電点で沈殿する傾向がありますが、ベタイン型は等電点でも比較的よく溶けます。浸透性、洗浄性あるいは帯電防止性などもベタイン型のほうがアミノ酸型よりも一般にすぐれています。
これらカルボン酸塩型両性界面活性剤のうちで、比較的よく用いられる形のものを親水基と疎水基の原料によって分類すると下表のようになります。
原料 | 第一級アミン R-NH2 第二級アミン |
第三級アミン |
脂肪酸 RCOOH 高級アルキルクロライド RCl |
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モノクロロ酢酸ナトリウム | アミノ酸型両性 | ベタイン型両性 | |
アクリル酸メチルまたはアクリロニトリルと水酸化ナトリウム | アミノ酸型両性 | ||
ポリエチレンポリアミンとモノクロロ酢酸ナトリウム | アミノ酸型両性 | ||
ヒドロキシエチルエチレンジアミンとモノクロロ酢酸ナトリウム | ベタイン型両性 |
界面活性剤全体から見た両性界面活性剤の使用量は多くありません。しかし、界面活性剤について困難な問題にぶつかったときには“両性を加えてみてはどうかな?”と一応考えてみられることが案外有益なことが多いのではないかと思う次第です。
三洋コーポレートサイト製品情報へのリンク |
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アルキルベタイン両性界面活性剤『レボン』シリーズ(洗浄基剤用)・レボン 2000(主成分:ヤシ油脂肪酸アミドプロピルジメチルアミノ酢酸ベタイン) 両性界面活性剤『レボン T-2』(抗菌剤)・レボンT-2(主成分:塩酸アルキル(ジアミノエチル)グリシン) アミノ酸型両性界面活性剤『ピウセリア AMC』・ピウセリア AMC(主成分:ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム) |
参考文献:藤本武彦著『界面活性剤入門』三洋化成工業(2014)
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