食品に用いられる有用微生物の例
酵母(イースト菌)、乳酸菌、納豆菌 など
抗生物質を生産する有用微生物
微生物の中には、ペニシリンに代表される抗生物質を生産する有用なものもあります。
ペニシリン:青カビから発見
ストレプトマイシン:土中の放線菌から発見
人の体の中には善玉、悪玉含めて100種類以上、数にして何と100兆個、重さにして1.5kg以上の細菌という微生物が存在しているといわれています。
これらの細菌の主な仕事は、酵素を出して消化吸収を助けたり、ビタミンB2やビタミンCなどを体の中でつくり出したり、時には有害菌がきたとき迎え撃ってくれたりもします。なかには悪臭を発生したり、酵素を出して人体の老化を促進する菌種もいますが、いずれにせよ人と細菌とはバランスを取り合って共存しています。そして、仕事が終わった細菌はふん便として排出されますが、ふん便の1/3は菌体であり、便1g当たり3,000億〜5,000億個の細菌がいるといわれています。
体内に入ったときに病気を起こさせる細菌、ウイルスなどの微生物を病原菌(または病原体)と呼びます。
食中毒菌の例
病原性大腸菌(O175)、黄色ブドウ球菌、サルモネラ菌、ボツリヌス菌、腸炎ビブリオ菌、カンピロバクター
耐性菌について
細菌は環境にうまく適応する能力をもっています。病気を治すはずの抗生物質や消毒剤が使われ過ぎると、細菌が抗生物質や消毒剤に対して耐性をもつようになります。その代表がメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA:Methicillin-resistant Staphylococcusaureus)で、メチシリンという抗生物質に耐性をもった黄色ブドウ球菌であり、院内感染菌として問題になることがあります。
現在、微生物学で扱う生物は下表に示す菌類、原生動物、一般藻類、藍藻類、細菌類とウイルスです。
動物・植物が多細胞生物であり、組織の分化が明瞭であるのに対し、微生物学で扱う生物は(キノコ類、藻類などの大きな生物も含まれていますが)、一般的には単細胞であるか、複数の細胞からなる場合でも菌糸形をとったり、海藻のように組織の分化の程度が低いと考えられる生物を対象としています。
原生生物 (微生物) (Protists) | 高等微生物 (Higher protists) | 菌類 (Fungi) | 真菌類(イースト菌、カビ類) | 真核細胞 |
粘菌類(変性菌類) | ||||
原生動物 (Protozoa) | 鞭毛虫類 | |||
肉質虫類 | ||||
胞子虫類 | ||||
有毛虫類 | ||||
一般藻類 (Algae) | 緑藻 | |||
紅藻 | ||||
褐藻 | ||||
珪藻 | ||||
ユーグレナ | ||||
下等生物 (Lower protists) | 藍藻類(Blue green algae) | 原核細胞 | ||
細菌類 (Bacteria) | 真正細菌類 | |||
粘液細菌類 | ||||
スピロヘータ | ||||
リケッチア | ||||
放線菌類 | ||||
ウイルス (Viruses) | 動物ウイルス | ウイルス | ||
植物ウイルス | ||||
細菌ウイルス |
下表では微生物の中の細菌類(Bacteria)を形態別に分類しています。
細菌 (Bacteria) |
グラム陽性菌 | 球菌 (胞子・鞭毛なし) |
莢膜あり | ブドウ球菌、レンサ球菌 | ||
莢膜なし | 肺炎球菌 | |||||
桿菌 | 胞子・鞭毛なし | ジフテリア菌、乳酸菌、結核菌 | ||||
胞子あり | 鞭毛あり | 好気性 | 枯草菌 | |||
嫌気性 | 破傷風菌、ボツリヌス菌 | |||||
鞭毛なし | 好気性 | 炭疽菌 | ||||
嫌気性 | ウエルシュ菌 | |||||
グラム陰性菌 | 球菌 (胞子・鞭毛・莢膜なし) | 淋菌、骨髄炎菌 | ||||
桿菌 | 鞭毛あり | 周毛 | サルモネラ菌、大腸菌群 | |||
単毛 | 緑膿菌 | |||||
鞭毛なし | 赤痢菌、百目ぜき菌、軟性下疽菌、ペスト | |||||
ラセン菌 | コレラ菌、腸炎ビブリオ菌(単毛) | |||||
スピロヘータ | 回帰熱ボレリア、梅毒トレポネーマ |
細菌の大きさは0.5~20μmの範囲にあり、普通1〜数μmの間です。他の細胞、ウイルス、分子などとの大きさの比較を下表、 下図に示します。
菌種 | 大きさ[μm] |
---|---|
肺炎球菌 | 0.5~1.3 |
淋菌 | 0.6~1.0 |
ブドウ球菌 | 0.8~1.0 |
百日ぜき菌 | 0.2~1.0 |
インフルエンザ菌 | 0.5~2.0 |
霊菌 | 0.5~1.0 |
ヒト型結核菌 | 0.5~4.0 |
菌種 | 大きさ[μm] |
---|---|
志賀赤痢菌 | 1.0~3.0 |
大腸菌 | 1.0~3.0 |
コレラ菌 | 1.0~5.0 |
らい菌 | 1.0~8.0 |
ジフテリア菌 | 1.0~8.0 |
破傷風菌 | 4.0~8.0 |
チフス菌 | 2.0~3.0 |
図 細菌の大きさ比較(引用文献:河西信彦ほか編『最新微生物学』講談社(1979) )
細菌細胞の基本構造の模式図を下図に示します。細菌細胞の外側は細胞壁(cell wall)と、それに接して内側に存在する細胞質膜(cytoplasmic membrane)によって袋状に覆われています。この細胞壁と細胞質膜を合わせて細胞表層(surface layer)、またはエンベロープ(envelope)と呼び、細胞質膜の内部には種々の細胞質内容物が包まれています。細胞質内容物としては核(nucleus)、メソゾーム(mesosome)、脂質顆粒、ポリリン酸顆粒、細胞質(cytoplasm)が含まれます。
図 細菌細胞の模式図(引用文献:河西信彦ほか編『最新微生物学』講談社(1979) )
身近な例: 哺乳瓶の熱湯消毒、針を炎で焼いての滅菌 など
身近な例:布団干し(紫外線による微生物の死滅) など
身近な例:アルコール消毒 など
薬剤で微生物を死滅させるためには、まず薬剤を微生物に接触させ、細胞表層に吸着させて細胞壁や細胞膜の物理的変化や生理機能阻害を起こさせれば、非常に短時間で死滅させることができます。
この作用を示す典型的な物質は、第4級アンモニウム塩型カチオン界面活性剤で逆性石けんともよばれ、細胞表層構造を破壊して微生物を死に至らしめます。
アルコール類は、タンパク質の変性、溶菌、代謝機能を阻害して抗菌効果を示します。
抗菌剤 | 作用機構 |
---|---|
濃厚塩類 | 脱水作用、酵素タンバク質の変性 |
アルコール類 | タンパク質の変性、溶菌、代謝機能の阻害 |
フェノール類 | 胞膜の破壊、タンパク質と反応し変性 |
ハロゲン類 | 酵素タンパク質・核タンパクのチオール基の酸化・破壊 |
ホルムアルデヒド | 酵素タンパク質の活性基と還元的に反応し凝固変性 |
グルタルアルデヒド | 細胞壁のチオール基、アミノ基と反応し核酸合成阻害、タンパク質合成阻害、細胞膜損傷 |
高級脂肪酸類 | 自己溶解酵素の誘発、溶菌 |
低級脂肪酸類 | 細胞壁の破壊、酵素阻害 |
エポキサイド類 | 核酸成分と反応 |
β-プロピオラクトン | 細胞膜の損傷、酵素タンパク質の変性 |
第4級アンモニウム塩類 | 細胞膜・細胞壁の損傷、酵素タンパク質の変性・呼吸阻害 |
ビグアナイド類 | 酵素阻害、細胞膜損傷、タンパク質と核酸の変性 |
ビスフェノール類 | 細胞膜の損傷 |
両性界面活性剤類 | 細胞膜・細胞壁の損傷、酵素タンパク質の変性 |
銀、銅 | 電子伝達系阻害、細胞膜損傷、DNAとの反応 |
銀担持セラミックス類 | 活性酸素による酵素タンパク質の変性 |
界面活性剤は下図の模式図に示すとおり、油に溶けやすい親油基と水に溶けやすい親水基とから構成されており、親水基のイオン型により分類することができます。
図 界面活性剤の基本構造
界面活性剤は、一般に微生物にダメージを与える能力があり、下表に界面活性剤のイオン分類別の抗菌効力の強さを最小発育阻止濃度(minimum inhibitory concentration:MIC)で示します。最小発育阻止濃度(MIC)とは微生物の発育を止めるのに必要な薬剤の最小濃度のことであり、値が小さいほど微生物の発育を阻止する能力が優れていることを表しています。
イオン型分類 | 代表的化合物 | 最小発育阻止濃度(MIC) ppm | |
---|---|---|---|
黄色ブドウ球菌 | バチルス菌 | ||
カチオン | 塩化ベンザルコニウム | 2 | 2 |
両性 | 塩酸アルキルジアミノエチルグリシン | 12 | 50 |
アニオン | ラウリル硫酸ナトリウム | 1,000 | 1,000 |
非イオン | ポリオキシエチレン(10)ノニルフェノールエーテル | 1,000 | 10,000 |
上表からわかるように、カチオン界面活性剤が最も微生物の発育を阻止する能力に優れ、両性界面活性剤がそれに次いでいます。カチオン界面活性剤と両性界面活性剤をさらに分類すると下表のようになり、このうち抗菌効力に優れているのは第4級アンモニウム塩とアミノ酸型両性界面活性剤です。
カチオン界面活性剤 | 第1級アミン塩 | |
---|---|---|
第2級アミン塩 | ||
第3級アミン塩 | ||
第4級アンモニウム塩 | ||
両性界面活性剤 | アミノ酸型両性界面活性剤 | |
ベタイン型両性界面活性剤 |
第4級アンモニウム塩のうち抗菌剤として使用されているものに、塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド、セチルトリメチルアンモニウムクロライドセチルピリジニウムクロライドなどであり、それぞれ次の化学構造を有しています。
塩化ベンザルコニウム
R:主としてC12H25、C14H29
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド
R:主としてC10H21
セチルトリメチルアンモニウムクロライド
R:主としてC16H33
セチルピリジニウムクロライド
塩酸アルキルジアミノエチルグリシン
R:主としてC12H25、C14H29
塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン
R1: R(NHC2H4)n
R2: RNHC2H4 または H
R:主としてC8H17 n: 1~2
第4級アンモニウム塩を水に溶解したとき、アンモニウム基がプラス(+)に帯電し、一方、微生物はたんぱく質で構成されているので表面がマイナス(-)に帯電しています。そのため、第4級アンモニウム塩のプラス(+)と微生物のマイナス(-)が電気的に引き合い、第4級アンモニウム塩が微生物に吸着します。微生物に吸着した第4級アンモニウム塩は、その親油基を利用して微生物の体内に入り込み、微生物の生理活性を乱して死に至らしめます。
親油基の違いによる抗菌効力の違いを、第4級アンモニウム塩である塩化ベンザルコニウムの親油基の炭素数と、抗菌効力の指標であるフェノール係数の関係を下図に示します。炭素数14のアルキル基を有する塩化ベンザルコニウムが菌を死滅させる効力が最も強いことがわかります。
フェノール係数とは
フェノール係数とは、薬剤がフェノールに比べ何倍の効力をもっているかを示す数値であり、数値が大きいほど効力が強いことを意味します。
図 塩化ベンザルコニウムのアルキル基炭素数とフェノール係数の関係
引用文献:J.Ain.PharmAssoc”36,353(1947)
特定のアルキル基で効力が最も強くなる傾向は、アミノ酸型両性界面活性剤においても同様です。
アルキル基の疎水性が抗菌性に及ぼす原因については、いまだに解明されておらず、今後の検討課題の1つになっています。
アミノ酸型両性界面活性剤 | 最も抗菌作用が高くなるアルキル基 |
---|---|
ジアルキルジメチルアンモニウム塩 | デシル基 (一C10H21) |
アルキルトリメチルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩 | セチル基 (一C16H33) |
塩酸アルキルジアミノエチルグリシンタイプ | ドデシル基 (一C12H25) |
塩酸アルキルポリアミノエチルグリシンタイプ | オクチル基 (一C8H17) |
微生物の発育を阻止する最抵の薬剤濃度を測定する方法であり、薬剤の効力を判断するために最も一般的に行われている効力試験です。
微生物を死滅させるために必要な最小の薬剤濃度を求める方法であり、薬剤希釈液と供試菌を短時間(通常30秒、1分、2.5分、5分、10分)接触させ、そのときの菌の生死を液体培地もしくは寒天培地で培養して確認します。
微生物を死滅させる効力がフェノールと比べて何倍強いかを求める試験であり、試験方法は最小殺菌濃度測定法と同様です。フェノールも同時に試験し、5分接触では死滅せず、10分接触で死滅する濃度の比で表します。
抗菌製品の評価方法としては、次の3つの方法が一般的です。
抗菌加工繊維の効力試験として一般的な方法です。微生物を接種した寒天培地に被験試験布を置いて培養すると、被験試験布の周囲に微生物の発育を阻止するクリアーゾーン(ハロー)ができ、このハローの大きさで効力を評価します。
定量的な抗菌繊維の評価方法であり、抗菌繊維を菌液の入ったフラスコに入れ一定時間振とう(シェイク)した後の生菌数を測定します。本法は繊維製品衛生加工協議会によるSEKマーク許諾に際して要求される評価の1つであり、非溶出タイプの抗菌防臭織維に対して適応されます。
銀などの無機系抗菌剤を練り込んだプラスチックなどの抗菌加工製品の抗菌力試験方法として開発された試験法の1つです。抗菌加工製品上に置かれた一定量の菌液を被覆フィルムで覆い、一定時間後の生菌数を測定することによって抗菌加工製品の表面の効力を評価する方法です。抗菌加工製品の対象とする表面が平らで、被覆フィルムの密着性が良好である板、シート、フィルムなどの形状の製品に適応され、表面の材質としてはプラスチック・ゴム、塗料、樹脂コーティング、セラミックなど親水性、はっ水性は問いませんが、吸水性がほとんどないものが好ましいです。
評価方法の詳細については「防菌防徵ハンドブック(技報堂)」「抗菌のすべて(繊維社)」などの成書を参照とすることを推奨いたします。
微生物を死滅させる薬剤のうち、病院などで用いられる「消毒剤」は「薬事法」の適用を受け、医薬品としての扱いを義務づけられています。
したがって、本用途の製剤を製造・販売しようとするものは消毒剤としての効能効果、製剤の安全性、安定性などのデータを添付して厚生労働大臣の承認および許可を受ける必要があります。
ここでいう「効能効果」を表す言葉としては、第九改正日本薬局方解説書B520には、次のように定義されています。
殺菌:微生物を死滅させることをいう。
消毒:人畜に対して有害な微生物、または目的とする対象微生物だけを殺滅することをいう。
滅菌:すべての微生物を殺滅するか、除去することをいう。
医薬品でないもの、すなわち「薬事法」の適応を受けないものについては医薬品との混同を避けるために「殺菌」「消毒」「滅菌」の代わりに「抗菌」「除菌」などの言葉を用いることが慣例になっています。
分類 | 薬品名 | 適用(濃度) |
---|---|---|
アルコール系 | 消毒用エタノール | 手指・皮膚の消毒 (原液) 手術部位の皮膚の消毒 (原液) 医療用具の消毒 (原液) |
イソプロパノール | 手指・皮膚の消毒 (原液) 医療用具の消毒 | |
アルデヒド系 | ホルマリン | 医療用具の消毒 (0.5~1.0%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (ホルムアルデヒド1~5%溶液による浸せき・清拭) 歯科領域における感染根管の消毒 (原液にクレゾールを加えて用いる) |
グルタラール (グルタルアルデヒド) | 医療用具の殺菌消毒(原液に浸漬) | |
界面活性剤系 | 塩酸アルキルジアミノエチルグリシン | 手指・皮膚の消毒 (0.05~0.2%) 手術部位の皮膚の消毒 (0.1~0.2%) 手術部位の粘膜の消毒 (0.01~0.05%) 医療用具の消毒 (0.05~0.2%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (0.05~0.2%) |
塩化ベンザルコニウム | 手指・皮膚の消毒 (0.05~0.1%) 手術部位の皮膚の消毒 (0.1~0.2%) 手術部位の粘膜の消毒 (0.01~0.025%) 医療用具の消毒 (0.1%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (0.05~0.2%) 膣洗浄 (0.02~0.05%) 結膜嚢の洗浄・消毒 (0.01~0.05%) | |
ビグアナイド系 | グルコン酸クロルヘキシジン | 手指・皮膚の消毒 (0.1~0.5%) 手術部位の皮膚の消毒 (0.1~0.5%) 皮膚の創傷部位の消毒 (0.05%) 医療用具の消毒 (0.1~0.5%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (0.05%) |
分類 | 薬品名 | 適用(濃度) |
---|---|---|
フェノール系 | フェノール | 手指・皮膚の消毒 (1.5~2%) 排泄物の消毒 (3~5%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (2~5%) |
クレゾール石けん液 | 手指・皮膚の消毒 (1~2%) 手術部位の皮膚の消毒 (1~2%) 医療用具の消毒 (1~2%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (1~2%) 排泄物の消毒 (3%) 膣洗浄 (0.2%) |
|
ヨウ素系 | ヨードチンキ | 皮膚表面の一般消毒 創傷の殺菌・消毒 歯肉・口腔粘膜の消毒、根管の消毒 (原液にクレゾールを加えて用いる) |
ポピドンヨード | 手術部位の皮膚・粘膜の消毒 皮膚・粘膜の創傷部位の消毒 |
|
水銀系 | チメロサール | 皮膚表面の一般消毒(原液) 創傷の殺菌・消毒(原液) 結膜嚢の洗浄・消毒(原液) |
マーキュロクロム | 皮膚表面の一般消毒(原液) 創傷の殺菌・消毒 (0.2~2%) |
|
過酸化物系 | オキシドール | 創傷部位の消毒 (原液または2~3倍希釈液) 外耳・中耳の炎症、鼻炎、咽喉頭炎、へんとう炎などの粘膜の炎症 (原液または2~3倍希釈液) 口腔粘膜の消毒、根管清掃・消毒、歯の洗浄 (原液または2倍希釈液) 口内炎の洗口 (10倍希釈液) |
塩素系 | 次亜塩素酸ナトリウム | 手指・皮膚の消毒 (0.01~0.05%) 手術部位の皮膚・粘膜の消毒 (0.005~0.01%) 医療用具の消毒 (0.02~0.05%) 手術室・病室・家具・器具・物品などの消毒 (0.02~0.05%) 排泄物の消毒 (0.1~1%) 患者用プール水の消毒 (残留塩素が1ppm) |
医療分野における手指の消毒方法には次の4種類があります。
ベースン法 | 洗面器に消毒剤を入れ、その中で手をもみ洗いして消毒する方法。 |
---|---|
スワブ法 | 綿球またはガーゼに消毒剤を浸し、皮膚面をふき取るように消毒する方法。 |
スクラブ法 | 洗浄剤入りの消毒剤で手指を洗い消毒する方法。ブラッシングなどを併用して泡立てながら洗浄消毒することもある。 |
ラビング法 | 速乾性の消毒剤を使用し、その一定量を手のひらに取り乾燥するまで皮膚に擦り込んで消毒する方法。 |
手洗い行為を頻繁に行うと皮脂膜の脱落、洗浄・消毒剤の皮膚に対する作用などで「手荒れ」を起こすことがあります。肌荒れを起こした皮膚の表面には黄色ブドウ球菌をはじめ一般細菌の付着することが多くなるので、肌荒れを起こしやすい消毒剤(例えば、次亜塩素酸ナトリウムなど)の使用は避け、油性ハンドクリームを使用するなどの「肌荒れ対策」が必要となります。
同一の消毒剤のみを使用していると、その薬剤に対する耐性菌が皮膚上に残留してくるため、定期的に異なる消毒剤に替えて使用することが耐性菌をつくらないためには必要となります。
床などを清拭消毒する際は、手袋、大型マスク、帽子、長そでのシャツ、長ズボンを着用し、作業開始直前に履物の上から清潔な足カバーを履います。ぞうきんを使用するときは厚手のゴム手袋を着けます。
清拭するときは、モップまたはぞうきんを往復させてはなりません。往復させると、いったん拭き取った汚染を再び混ぜ合わせる結果となり、汚染をかえって広げることもあります。
拭く順序は、風上から風下へ、また部屋の奥から出入り口のほうへ拭いていきます。
使用したモップは水洗後、必要に応じオートクレーブ滅菌して、直ちに乾燥し風通しのよいところに保管します。いつまでも湿ったまま放置したり、狭い収納箱に重ねて保管してはなりません。
畜産分野における消毒剤も薬事法の適応を受けますが、農林水産大臣が許認可を与えることが、医療分野と異なっています。
今日では、薬剤メーカーの畜産関連の疾病および消毒に関する知識の啓蒙・薬剤使用方法の実技指導の徹底と、消毒作業に使用する機器類の改善と相まって、病気発生のいかんにかかわらず、消毒作業を日常作業の中に取り入れる養鶏場や養豚場が多くなっています。
鶏舎の消毒は、鶏舎から鶏を出し、次の鶏を入れるとき(オールアウト時)に行います。採卵鶏舎では、ひなの成長に応じて成鶏になるまでに3~4回消毒しますが、ブロイラー鶏舎は1回の消毒で出荷までの全期間をまかないます。
オールアウト時の鶏舎消毒は、通常、次の工程で行われます。
除糞清掃 ⇒ 水洗 ⇒ 乾燥 ⇒ 消毒剤散布(1~3回) ⇒ 燻蒸殺菌
使用する消毒剤は、第4級アンモニウム塩、両性界面活性剤、ヨードホール製剤、オルソ剤が一般的です。このうち、第4級アンモニウム塩、両性界面活性剤は通常10%の水溶液製剤として市販されており、200~2,000倍に希釈して鶏舎内壁と床面の全体に動力噴霧機などを用いて散布処理します。
発泡消毒は、50倍希釈した気泡力のある消毒剤を、発泡機または特殊なノズルを用いて泡状とし、被消毒面を覆うことにより、効率よく消毒しようとする消毒方法です。
発泡消毒剤は、ほかの散布処理と比べて次の利点があります。
・床面や壁面への付着時間が長く消毒効率が高い。
・廃液の流出が少ない。約10倍濃い濃度で使用するため、散布液量が少なくてすみ、環境汚染または活性汚泥処理槽への影響が少ない。
・作業者の安全性確保。作業者が霧粒子を吸引することが少ない。
・電気装置への影響。電気装置への飛沫侵食が少ない。
・処理個所の確認が容易。散布した個所が目に見えるため、作業の仕残しがない。
鶏体噴霧による消毒法は、1970年代に全国的に流行したマクレ病(鶏伝染病の一種で、感染鶏は生後100~150日で死んでしまう)対策として開発された方法で、初生ひなから180日齢ころまで、第4級アンモニウム塩・両性界面活性剤系消毒剤の500~2,000倍希釈液を毎日1〜2回、鶏舎とひなの体に噴霧する方法です。現在では、定置配管式噴霧装置を設置して自動的に噴霧している養鶏所も少なくありません。 この方法を採用することにより、導入以前は50~60%のひなが死亡していたのが、90%以上も生存するようになり、劇的な改善が見られました。
鶏が飲む水は数十〜数千羽が共有しているため、最大の伝染経路と考えられていました。
この飲水中の病原菌やウイルスを殺滅し、伝染病の拡大を防止する方法として飲水消毒があります。これは、鶏の飲み水中に毒性の低い第4級アンモニウム塩、ヨードホール製剤のうち、卵肉中への薬剤残量のないことが確認された消毒剤を添加し、細菌汚染の危険のない水を供給する方法です。
作業者に関係する消毒には、履物、衣類、手洗いなどがあります。これらは、いずれも病原菌やウイルスを伝搬するとして、家畜の伝染病の防止上、その消毒が重要視されています。
履物の消毒のためには、農場では場内入口あるいは畜鶏舎入口に、カチオン界面活性剤系消毒剤の100倍希釈液を入れた踏み込み消毒槽を設置していますが、靴の底に付着した泥や鶏ふんなどが消毒糟に持ち込まれると薬剤の効果が低下し、十分な効果を期待することは難しくなります。
また、手洗い器を場内入口や畜鶏舎入口に設置しているところもありますが、同様の問題があります。したがって、踏み込み消毒槽や手洗器の消毒剤の更新を頻繁に行うなど、十分な管理が必要となります。
「環境用抗菌除菌剤」とは、私たちの身の回りをきれいにする除菌洗浄剤のことであり、先に述べた医療環境以外の分野で次の4分野で使用される除菌洗浄剤が当てはまります。
個人の台所、トイレなどに設置して使用する除菌洗浄剤です。
食品工場、飲食店、スーパーバックヤード、ホテルの厨房、給食センターなどで使用する除菌洗浄剤です。
公衆浴場、映画・観劇場、プール・遊泳場、遊技ホール、百貨店など不特定多数の人が利用する施設で使用する除菌洗浄剤です。
鉄道、車両、船舶などで使用する除菌洗浄剤です。
食品衛生関係では、トータルサニテーション管理、食品GMP、食品適正製造基準およびHACCPシステム(HazardAnalysisCriticalControlPointsSystem:危害分析重要管理点方式)などの方法が提唱され、総合的な衛生管理手法の必要性が指摘されています。
食生活の多様化、加工食品の広域流通化に伴い食品の衛生制御はますます重要課題になっています。 このため食品製造業者にとっては微生物制御は避けて通れない問題であり、原材料の購入保管から販売流通に至るまで、ありとあらゆる微生物制御がなされています。各工程別の微生物の増殖防止例を下表に示します。
工程 | 微生物の増殖防止内容 |
---|---|
原材料 | 冷蔵・冷凍による保管除菌洗浄 |
容器・包装 | 除菌洗浄 |
施設・設備 | 除菌洗浄、防鼠、防虫、防カビ |
機械・器具 | 除菌洗浄 |
作業者 | 手指の殺菌洗浄、健康管理、行動管理、作業着の管理 |
販売・流通 | 冷蔵保管、保管場所の除菌洗浄 |
食品関連の微生物の増殖を防ぐ行為の中でも「除菌洗浄剤」の占める割合は大きく、除菌洗浄剤に使用される環境抗菌・除菌剤の代表的なものをグループ別にあげます。
アルコール系 | エタノール、イソプロパノール |
---|---|
アルデヒド系 | ホルマリン、グルタルアルデヒド |
塩素系 | 次亜塩素酸ナトリウム、二酸化塩素 |
第4級アンモニウム塩 | 塩化ベンザルコニウム、ジデシルジメチルアンモニウムクロライド |
両性界面活性剤 | 塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、ナトリウムアルキルジアミノエチルグリシン、 塩酸アルキルポリアミノエチルグリシン |
ビグアナイド系 | グルコン酸クロルヘキシジン、ポリヘキサメチレンビグアニジン |
フェノール系 | フェノール、クレゾール |
ヨウ素系 | ノノキシノールヨード、ポピドンヨード |
酸素系 | 過酸化水素水、エチレンオキシド、オゾン、過酢酸 |
その他 | 酸性水 |
上記の抗菌剤を使用対象、制御対象微生物によって、単独あるいは併用して 清拭、浸せき、散布、噴霧やガスくん蒸の方法で特定環境空間や環境に存在する物品・設備の抗菌・除菌を行います。
また、作業者の手指、作業着・長靴、機械・器具、床+壁などの洗浄と抗菌処理を一度の工程で済ます「除菌洗浄剤」が衛生管理に一役かっています。
作業者の手指の殺菌洗浄には、厚生省の許認可を得た「医薬部外品」が使用されています。例えば「塩化ベンザルコニウム」0.1〜0.3%と非イオン界面活性剤(洗浄剤成分)を配合した薬用石けんの原液を手のひらに取り、1〜3分間もみ洗いした後、流水でよくすすぐような使い方がされています。
薬剤の使用による環境の抗菌・除菌は、だれでも比較的簡単に行える反面、薬剤の不適性かつ安易な選定、調整などの取り扱いの不備によって、薬剤の抗菌効力が減退したり、長期にわたる反復使用によって薬剤耐性菌が出現することがあります。
特に同一薬剤を長期にわたって使用するときは、薬剤耐性菌が存在しないことを定期的に確認する必要があり、種類の違う薬剤を定期的に変えて使用するのが一般的です。
衣類、履物、特に人の肌に直接接触する製品は皮膚面から分泌される汗、皮脂、表皮細胞の角質化物からなる皮膚あか、大気中のちりによって生じる汚れが微生物が増殖するための栄養源となり、さらに体温と人体表面の湿度がそろうと、微生物にとってこの上もない絶好の増殖環境となります。 このため腐敗、発酵現象が起こり、アンモニアなどを生成し悪臭を発したり、皮膚を刺激して炎症を誘発することもあります。
また、繊維に微生物(特にカビ)が増殖すると繊維に付着している汚れの分解生成物、微生物の代謝物質により、染料の脱色や分解が生じて、繊維製品が変色し、微生物の生産する色素によって繊維製品が着色したりシミができたりもします。
関係する微生物としては、黄色ブドウ球菌、大腸菌、尿素分解菌などがあげられます。 わが国においては、1955年ころから繊維上で悪臭を発生する微生物の増殖を防ぐことを目的とした「衛生加工繊維製品」が発売され始め、アパレル製など品質性能対策協議会が1984年〜86年までの3年間審議し「抗菌防臭加工」の用語が誕生しました。その後、通産省の指導も受けSEK(繊維製品衛生加工協議会)により、加工薬剤の安全基準が設けられ、この審査にパスした製品のみが品質保証のSEKマークをつけて販売されています。
加工薬剤については効力だけでなく、安全性の基準も設けられています。
試験項目 | 試験方法 | 評価基準 |
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急性経口毒性試験 | ・改正医薬品毒性試験法 ・OECD/TG401(2002/12以前のデータのみ有効) ・OECD/TG420(固定用量法) ・OECD/TG423(毒性等級法) ・OECD/TG425(上げ下げ法) | LD50≧2,000mg/kg |
変異原性試験 [復帰突然変異試験] (Ames試験) | ・労働安全衛生法の規定に基づく告示による方法 ・化審法の新規化学物質等に係る試験方法 ・OECD/TG471 (何れもプレインキュベーション法、又はプレート法で、推奨のネズミチフス菌4菌種と大腸菌1菌種を使用する事) | 陰性 |
変異原性試験 [染色体異常試験*1、又はマウスリンフォーマTK試験] | ・労働安全衛生法の規定に基づく告示による方法 ・化審法の新規化学物質等に係る方法 ・OECD/TG473(以上、染色体異常試験) ・OECD/TG476(マウスリンフォーマTK試験) | 陰性 |
皮膚刺激性試験 | ・ASTM F719-81 ・OECD/TG404 ・OECD/TG439(再生ヒト皮膚RhE試験) | PII値*2<2.0 In vitro⇒非刺激物 (non irritant) |
皮膚感作性試験 | ・医療機器の生物学的安全評価のための試験法 | 陰性 (陽性率=0) |
・OECD/TG429(LLNA/RI法) ・OECD/TG442A(LLNA/DA法) ・OECD/TG442B(LLNA/Brdu-ELISA法) | 陰性 |
繊維用抗菌抗カビ剤には有機系薬剤から無機系薬剤まで多品種の薬剤が用いられており、それぞれ下表のような特長を有しています。
分類 | 組成 | 特長 |
---|---|---|
界面活性剤 | 塩化ベンザルコニウム | 強い抗菌性、高い吸着力 |
ジデシルジメチルアンモニウムクロライド | 強い抗菌性、高い吸着力 | |
DC-5700 | 持続性が良好 | |
アルキルジアミノエチルグリシン | 共存物質の影響が少ない | |
脂肪酸モノグリセライド | 毒性が低い | |
ビグアナイド系 | グルコン酸クロルヘキシジン | 繊維に対する吸着性が高い |
塩酸クロルヘキシジン | 耐洗濯性に優れる | |
ポリヘキサメチレンビグアニジン | 比較的毒性が低い | |
フェノール系 | ビオゾール | 皮膚刺激性が低い |
チモール | 抗菌スペクトルが広い | |
イミダゾール | TBZ | カビに有効、難溶性 |
TCMTB | 毒性が低い | |
無機系 | 銀/ゼオライト | 熱安定性に優れる |
銀/酸化チタン | 毒性が低い |
抗菌ボールペンや抗菌洗濯機など、多くのプラスチック製品が抗菌化されています。
純粋なプラスチックはカビや細菌に対して優れた抵抗性をもっています。 しかし、プラスチックを実際の用途に適した製品にするためには、成形加工の段階で滑剤や酸化防止剤、可塑剤、離型剤などの助剤または添加剤を加えます。この助剤や添加剤が栄養源になって微生物が増殖しやすくなっています。また、静電気などの作用によって樹指表面に汚れが付着し、それが栄養源になって微生物が増殖している場合もあります。
プラスチック用の抗菌防カビ剤としては、耐熱性に優れる銀ゼオライトなどの無機系抗菌剤などが用いられることが多くあります。
プラスチック製品を抗菌性にする具体的な目的とその用途は大きく分けて次の3通りが考えられます。
風呂場や台所の目地、およびそこで使うプラスチック製品が黒く汚れていることが多々あります。これはカビが製品表面に増殖することが原因と考えられます。カビが増殖すると、まず使用者に「不衛生」という印象だけでなく、悪臭が発生する場合もあります。細菌や酵母の代謝する色素には、プラスチックの可塑剤に溶解することにより製品を着色し、長期間そのままにしておくと拭き取ってもシミとして残る場合があります。
[具体的用途例]
・内装材:壁紙、床材、シャワーカーテン
・建材:シーラント、ガスケット、テント
・家電製品:洗濯機、冷蔵庫、食器洗い機
・日用雑貨:文具(ボールペン)、風呂用小物、台所用小物
一般の家庭でのカビは、見た目には不衛生に感じるが、直接健康への障害となることはまれです。 それに反し、病院や老人ホームなど、体力が低下している人たちが多く集まる場所では、見た目だけではなく、実際上の衛生管理が必要となります。
特に細菌の中には病原性をもつものが多く、食中毒や感染症の原因ともなっており、最近ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)が院内感染で問題になっていることを契機に、多くの抗菌製品が医療施設用に開発されています。
[具体的用途例]
・医療施設:インテリア、履物、マットレス、空調機、各種医療機器、加湿器
・食品関連:まな板、食品包装
プラスチックの中には、微生物の影響で機械的物性が低下するものがあります。例えば、防水シートは微生物の作用によって亀裂が入り、水が漏れてしまえば機能を失うことになります。また、プリント配線基板にカビが生えることによる絶縁不良は、プリント配線基板の命取りになります。
微生物の作用を受ける程度は、使用条件によって異なるが、材料別には、ウレタン、軟質塩化ビニル、シリコーンなどの添加剤を多く使う樹脂や、比較的柔軟性のある樹脂はカビに侵されやすく、結晶性の硬質塩化ビニルやポリプロピレンなどはカビの影響を受けにくいという傾向にあります。
[具体的用途例]
・防水材:シート、コーティング、目地
・電線被覆
・靴底
・プリント配線基板
樹脂 | 微生物劣化を受けやすい製品 |
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ポリウレタン | 電気絶縁材料、ベルトコンベア、パッキン、ウレタンフォーム、床材建材、止水材、スニーカーの底、シール材 |
軟質塩化ビニル | 手袋、建材、冷蔵庫パッキン、ビニルクロス、テント、シャワーカーテン、ガーデン家具 |
エポキシ | 建材、土木材料、プリント配線板、ガラス繊維複合材 |
シリコーン | シール材、接着剤 |
ポリアミド | 接着剤、ナイロンたわし |
紙・パルプ用抗菌防カビ剤というと抄紙工程におけるスライムコントロール剤があります。スライムとは「主として抄紙工程中において原質液の中に微生物の作用によってできる粘性物質」であって、紙切れ、チリなどの原因となります。
このスライム発生を予防するためには、以下が重要な要素となります。
・徹底的な清掃によるきれいな環境づくり
・水も含めた原科が円滑に流れるような改善
・パルプや填料の不均・分散が起こらないような設備の改善
・薬剤(スライムコントロール剤)による予防
スライムコントロール剤の具体的使用法のポイントは次のとおりです。
パルプへの吸着性が大きい薬剤を使用する場合は、添加場所も1か所だけではなく、数か所にする必要があります。一般的にはスライムが発生する場所にできるだけ近づけ、かくはんが十分に行われるようにします。
スライム生成菌に接触し、死滅あるいは発育阻害作用を発揮するために必要な通算時間が1回当たりの添加時間となります。 これは、抄紙工程での水の流れの所要時間と薬剤の作用時間を勘案して経験的に決められています。一般的には1〜2時間程度の添加時間となることが多くあります。
効力と経済性の両面から決定されるが、試験管内と抄紙工程現場との相違、予防的な取り組みへの配慮などから、試験管内試験から得られた添加量よりも過剰に使用することが必要です。 スライムコントロール剤は、薬剤の有効成分別に大別すると有機イオウ系、有機窒素系、有機臭素系、有機ヨウ素系、第4級アンモニウム塩などに分けられます。
紙関連の抗菌機能として、「抗菌紙」があります。
抗菌紙はもともと病院向けのカルテなど、院内感染防止の必要性から生じた商品です。また、寿司のバッケージに抗菌紙が入れられるなど、食品保存にも一役買うようになりました。さらに、清潔志向の高まりにより、ノートや書籍のカバーなどにも抗菌紙が使われるようになっています。
木材の劣化を起こす生物には、細菌・糸状菌(カビ、キノコ)、昆虫(シロアリ、キクイムシなど)、海虫(フナクイムシ、キクイシャコなど)があります。また、劣化を起こす場面としては、樹木の伐採から利用に至る各段階までさまざまであるが、大きくは次のように分けることができます。
木材は、伐採後まもなく周辺変色菌と生丸太害虫の攻擊を受けるため、丸太の抗菌・殺虫散布処理が必要となります。
製材直後の木材は含水率が高いので、表面汚染菌が増殖しやすい条件下にあります。製材の防カビ処理を行っていても、屋外での自然乾燥期間が長いと、腐朽菌の攻撃を受けることとなります。
使用環境により劣化の発生や進行速度が異なります。比較的危険性の低い場面から危険性の高い場面の順に並べると次のようになります。
比較的劣化の危険性低い
↑
①土壌に接触せず、雨水にもさらされずに常に乾燥している (室内など)
②土壌に接触していないが、ときどきぬれることがある (床下)
③土壌に接触していないが、常に雨水にさらされる (外壁、ベランダなど)
④土壌または淡水と接触し、常に含水率が高い(地下室、外壁、外柵、公圃遊具、樹木支柱、電柱、まくら木、木造船など)
⑤常に海水にさらされている(海洋環境にある桟橋、木造船など)
↓
劣化の危険性高い
タールを蒸留して得られるクレオソート油は、かつては電信用木柱やまくら木に使用されていました。
クレオソー卜油以外にも鋼・クロム・ヒ素系薬剤、有機塩素系化合物(クロルデンなど)、有機スズ化合物が1960年代までに登場し、世界的に多用されていました。しかしながら、人畜への毒性や環境汚染が問題となり、クレオソート油と銅・クロム・ヒ素系薬剤以外は世界各国で使用禁止になりました。
また、クレオソート油は処理作業時の悪臭や皮膚刺激性、人体に有害な成分の含有が問題視され、銅・クロム・ヒ素系薬剤では処理剤の焼却廃棄時の有害物質の発生などが指摘され、代替薬剤の開発を望む声が高まり、現在では有害なベンゾピレン類を規定値以下にした改良型クレオソート油、ナフテン酸銅油剤、バーサチック酸亜鉛乳剤などが使用されています。
木材の防腐防虫剤での処理方法としては、加圧注入法、浸せき法、塗布法などがあります。
加圧注入法は次のような手順で処理されます。
①木材を金属製(通常鉄製)の加圧可能な木材処理用タンクに入れる。
②使用濃度に希釈した薬液を木材処理用タンクへ導入し、木材を浸せきする。
③木材処理用タンクを減圧にして、木材中の空気を十分に抜く。
④木材中の空気が抜けた後、木材処理用タンクを加圧して薬液を木材の内部まで浸透させる。
⑤常圧に戻した後、薬液を薬液タンクに戻す。
⑥木材をタンクから取り出し、乾燥させる。
薬剤使用量は薬剤の種類によっても異なりますが、カチオン系防腐剤(ジデシルジメチルアンモニウム塩)の場合は、通常、木材1m3当たり1kg以上含浸されるように調整するのが適量になっており、薬液としてはカチオン系防腐剤が0.25〜4%となるように希釈されています。
区分 | 種別 | 薬剤 | 備考 |
---|---|---|---|
加圧 処理用 | 水溶性 | ・銅・クロム・ヒ素系 ・ケイフッ化銅・ケイフッ化亜鉛 ・重クロム酸アンモニウム | 最も多量に使用(土台など) |
油状 | ・クレオソート油 (現在は改良型クレオソート油、ナフテン酸銅油剤、バーサチック酸亜鉛乳剤) | 枕木の加圧のほか、塗布用 | |
水溶性 | ・ジデシルジメチルアンモニウムクロライド | 食品製造環境用除菌剤 | |
木口加圧 | ・硫酸銅 | 使用量は少ない | |
主として 表面処理用 | 有機ヨード系 | ・p-クロルフェノキシ-(3-ヨード-2-プロパルギル)オキシメタン(1F-1000) ・3-エトキシカルボニルオキシ-1-ブロム-1,2-ジヨード -1-プロペン(サンプラス) ・3-ヨード-2-プロペニルブチルカーバメート(トロイサン) ・ジヨードメチル-p-トリスルホン | ヨード系は防腐防カビとして多くの木材保存分野に使用 |
フェノール系 | ・トリブロムフェノール ・p-ブロム-2,5-ジクロルフェノール ・トリクロルフェノール | 防腐用 防腐用 防腐防カビ用 | |
ナフテン酸 金属塩 | ・ナフテン酸銅 ・ナフテン酸亜鉛 | 防腐用 防腐用 | |
ヒドロキシルアミン系 | ・N-ニトロソ-N-シクロヘキシルヒドロキシルアミンアルミニウム ・N-ニトロソ-N-シクロヘキシルヒドロキシルアミンカリウム | 防腐防カビ用 水溶性、防カビ用 | |
ナフタリン系 | ・モノクロルナフタリン | 防腐防アリ用 | |
キノリン系 | ・8-オキシキノリン銅 | 防腐防カビ用 | |
アリニド系 | ・N-メトキシ-N-シクロヘキシル-4-(2,5-ジメチルフラン)カルバニリド ・3-イソプロポキシ-3'-トリフルオロメチルカルボアニリド | 防腐用 ナミダタケ防除、土壌処理用 | |
ハロルアルキルチオ系 | ・N,N-ジメチル-N'-フェニル-N'-(ジクロロフルオロメチルチオ)スルファミド ・テトラクロルエチルチオテトラヒドロフタルイミド | 防腐防カビ用 | |
ニトリル系 | ・テトラクロルイソフタロニトリル | 防腐防カビ用 | |
ベンゾチアゾール系 | ・2-メルカプトベンゾチアゾール ・2-(チオシアノメチルチオ)ベンゾチアゾール | 防腐防カビ用 | |
第4級アンモニウム塩 | ・ジデシルジメチルアンモニウムクロライド | 防腐防カビ用 | |
ベンゾイミダゾール系 | ・サイアベンダゾール | 防カビ用 | |
チオシアネート系 | ・メチレンビスチオシアネート | 防カビ用 |
参考文献:パフォーマンス・ケミカルスの機能シリーズNo.11 微生物の繁殖を防ぐ 抗菌機能編
有効成分としてジデシルジメチルアンモニウムアジペートを約 48 質量%含む水溶液で、ハロゲンフリーのカチオン界面活性剤型抗菌剤です。
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