アニオン界面活性剤入門

界面活性剤とは

まず、界面とは異なった性質を持つ2つの物質の間に存在する境界面のことで、液体と固体、液体と液体、液体と気体の間に界面が存在します。​
この界面において洗浄や乳化、分散、湿潤、浸透などの機能を発揮して性能を高めるのが界面活性剤です。​

界面 = 異なった性質を持つ2つの物質の間に存在する境界面
液体と固体 : コップとコーヒー、機械と潤滑油​
液体と液体 : 水と油​
液体と気体 : 海水と大気、シャボン玉

界面活性剤の役割例
洗浄       ・・・  汚れを落とす​
乳化・分散  ・・・  混ざり合わないものを混ざりやすくする
湿潤・浸透  ・・・  濡れやすく、しみ込みやすくする

界面活性剤の基本構造と種類

・界面活性剤は分子中に親油基(油になじむ部分)と​親水基(水になじむ部分)という異なる性質を持つ構造を有しています。
・界面活性剤には親水基の構造によって、ノニオン系、アニオン系、カチオン系、両性系(アニオンとカチオンを両方有する)4つに大別されます。

界面活性剤の種類
    
界面活性剤の種類 特徴 主な用途 組成例
ノニオン界面活性剤
(非イオン界面活性剤)
  • 親水性と疎水性のバランスを容易に調整できる
  • 乳化・可溶化力に優れる
  • 泡立ちが少ない
  • 温度の影響を受けやすいがpHの影響は受けにくい
  • 衣料用洗剤
  • 乳化・可溶化剤
  • 分散剤
  • 金属加工油
  • ポリオキシエチレン
    アルキルエーテル
  • ポリオキシアルキレン
    アルキルエーテル
    etc.
アニオン界面活性剤
  • 乳化・分散性に優れる
  • 泡立ちが良い
  • 温度の影響を受けにくい
  • 衣料用洗剤
  • シャンプー
  • ボディソープ
  • アルキルベンゼンスルホン酸塩
  • アルキルエーテル硫酸エステル塩
    etc.
カチオン界面活性剤
  • 繊維などへ吸着する
  • 帯電防止効果がある
  • 殺菌性がある
  • ヘアリンス
  • 衣料用柔軟剤
  • 殺菌剤
  • ジデシルジメチルアンモニウム
    メチル硫酸塩
    etc.
両性界面活性剤
  • 皮膚に対してマイルド
  • 水への溶解性に優れる
  • 他の活性剤と相乗効果あり
  • シャンプー
  • ボディソープ
  • 台所洗剤
  • 塩酸アルキルジアミノエチル
    グリシン
  • ラウリルアミノプロピオン酸
    ナトリウム
  • ジメチルステアリルベタイン
  • やし油脂肪酸アミドプロピルベタイン
    etc

界面活性剤の機能紹介動画(※音声が出ます)

界面活性剤の機能紹介動画の構成
0:00 界面活性剤の機能紹介  
0:21 パート① 洗浄性(布の洗浄実験)  
1:05 パート② 浸透性(疎水性繊維への浸透性付与の実験、不織布への浸透性付与の実験)
2:15 パート③ 分散性(無機顔料の分散実験) 
3:00 パート④ 起泡性(起泡剤添加の実験) 
3:25 パート⑤ 消泡性(消泡剤添加の実験) 
3:44 パート⑥ 平滑性(シートベルトの平滑性テスト)
4:25 パート⑦ 抗菌性(抗菌剤添加の実験)

アニオン界面活性剤とは

アニオン界面活性剤は古くから使用されており、現在でも非イオン界面活性剤に次いで多く使用されています。

昔、灰汁などを用いて洗たくしていたころから進歩して、一般に石けんが用いられるようになって初めて近代的な界面活性剤工業の幕が上がりました。次いで、ロート油(硫酸化ひまし油)が合成界面活性剤の先駆として登場し、繊維の染色、仕上げ業界において長くその効用がたたえられました。その後、高級アルコール硫酸エステル塩、アルカノイルメチルタウライド、アルキルベンゼンスルホン酸塩などが現れて現在のアニオン界面活性剤の主力が勢ぞろいすることとなりました。

まず、アニオン界面活性剤を分類してみると下表のようになります。

アニオン界面活性剤の分類
   
カルボン酸塩 石けん
ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩
アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩
その他
スルホン酸塩 アルキルベンゼンスルホン酸塩
アルキルナフタレンスルホン酸塩
パラフィンスルホン酸塩
アルカノイルメチルタウライド
ジアルキルスルホこはく酸エステル塩
その他
カルボン酸塩/スルホン酸塩 アルキルスルホこはく酸エステル二塩
ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホこはく酸エステル二塩
硫酸エステル塩 高級アルキル硫酸エステル塩(高級アルコール硫酸エステル塩)
ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩
(高級アルコールEO付加物硫酸エステル塩、高級アルキルエーテル硫酸エステル塩)
硫酸化油
硫酸化脂肪酸エステル
硫酸化オレフィン
その他
りん酸エステル 高級アルキルりん酸エステル塩(高級アルコールりん酸エステル塩)
ポリオキシエチレンアルキルエーテルりん酸エステル塩
(高級アルコールEO付加物りん酸エステル塩、高級アルキルエーテルりん酸エステル塩)
ジチオりん酸エステル塩
その他

カルボン酸塩

石けん

天然の油脂を水酸化ナトリウムの水溶液(一般にはアルカリ水溶液)と一緒に加熱しながらかきまぜていると、反応(けん化)して石けん(すなわち高級脂肪酸のアルカリ金属塩)とグリセリンができます。


図 油脂のけん化反応

これに食塩の濃厚液を加えると石けんが析出(塩析)して上に浮くので、これを取り出し、精製加工して市場へ出されます。使用するアルカリには水酸化ナトリウムが最も多く用いられるので、ふつうに石けんといえばナトリウム石けんのことですが、化粧用などには特別に水酸化カリウムが用いられることもあり、このときは塩析せずにグリセリンを含んだままカリウム石けんとして柔らかい状態で用いられます。

使用される原料の油脂としては牛脂、やし油、パーム油、米ぬか油、大豆油、落花生油、硬化油などいろいろなものがありますが、量的にはやし油、パーム油が多いです。原料油脂の種類が異なると含まれている脂肪酸の種類や、その比率が異なるので、できた石けんも性能が変わってきます。代表的な脂肪酸の石けんについてその性質を比べてみると以下のようになります。

ラウリン酸ナトリウム:C11H23COO-Na+

やし油からつくる石けんの主成分で、炭素数が全部で12なので疎水基は比較的短いものです。そのために水に溶けやすく、洗浄力も優れています(炭素数が12以下になると水溶性はもっとよくなりますが、洗浄力は悪くなってしまいます)。

ステアリン酸ナトリウム:C17H35COO-Na+

硬化油など固体の油脂からの石けんに多く含まれている炭素数18の飽和脂肪酸の石けんです。疎水基が長いので硬く、疎水性がかなり大きいので、親水基のカルボキシル基のナトリウム塩(-COO-Na+)1個では親水性が足りず、あまり水に溶けません。また、洗浄力も低温ではよくありません。

オレイン酸ナトリウム:C17H33COO-Na+

オリーブ油などからつくられる石けんの主成分で、牛脂の石けんの大半もこのオレイン酸ナトリウムです。

ステアリン酸と同じく炭素数は全部で18ですが、分子の真ん中に二重結合があるので性質が変わってきます。二重結合は弱いながらも親水基の仲間なのです。そのために、オレイン酸ナトリウムは水にもよく溶け、また洗浄力もすぐれています。

(分子の真ん中にあまり強い親水基があることは洗浄力を低下させます。たとえば、ひまし油石けんは分子の真ん中に二重結合のほかに水酸基があるので、水にはよく溶けますが洗浄力は悪く、洗浄用には適しません)。

石けんの溶解性・酸の影響

石けんは一般に水溶性が小さいので、少し濃い溶液にすると粘度が高くなったり、放置するとゲル化したりします。元来その水溶液はアルカリ性ですが、中性にすると効果がなくなり、中性~酸性では脂肪酸が遊離してしまいます。


図 石けんと酸の反応

硬水が石けんに与える影響

また硬水(カルシウムなどの塩類を多く含んだ水)を用いた場合は、水に不溶性のカルシウム石けんなどを生じて沈殿し、効果がなくなります。
したがって、硬水では石けんは使用が困難です(温泉で石けんを使った経験のある方はすぐに了解されると思います)。とくにヨーロッパや米国では硬水のところが多いので石けんが使いにくく、このために硬水に安定な合成洗剤が早くから発達したともいえます。 


図 石けんとCaイオンの反応

ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩

ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩は、石けんのもつ親水基であるカルボン酸塩以外に、非イオン性の親水基であるポリエチレングリコール鎖をあわせもつアニオン界面活性剤です。

生分解性がよく環境にやさしいという石けんの特長を有する一方で、非イオン性のポリエチレングリコール鎖をもつため、石けんよりも親水性に優れています。そのため石けんの短所である皮膚への刺激性は低くなり、洗面器などの汚れの原因となる石けんカスができないなどの特長を有しています。これらの特長を生かして、エチレンオキシドの付加モル数の少ないもの(上記式でn=3程度)がボディーシャンプー、洗顔剤、低刺激性のシャンプーなどによく使用されています。石けんが使えない酸性条件下でも洗浄剤基剤として使用が可能です。


図 ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸ナトリウムの合成経路

アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩

石けんのもつ親水基であるカルボン酸塩以外に、水酸基をあわせもつ新規なアニオン界面活性剤です。

皮膚のpH領域である弱酸性〜中性できめ細かな良質の泡をたてることができます。また適度な洗浄性を有するため皮膚や毛髮の脂質を過度に脱脂せず、低刺激性であり、生分解性も高いため、ボディーシャンプーやヘアシャンプー用の基剤として好適です。


図 アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸ナトリウムの合成経路

スルホン酸塩

スルホン酸塩は一般にR-SO3-Na+で表されます。よく似た化合物に硫酸エステル塩R-O-SO3-Na+があります。いずれも硫酸を作用(硫酸化)して得られますが、スルホン酸を得る反応はスルホン化(sulfonation)、硫酸エステルを得る反応は硫酸エステル化(sulfation)と区別されています。いずれも親水基を導入するという点で界面活性剤にとって重要な反応です。

スルホン酸塩と硫酸エステル塩はよく似た化合物ですが、その性質には異なっているところもあり、これはR(すなわち炭素原子)とS(硫黄原子)との間にある-O-結合によるものであることがわかっています。

もっとも異なるところは、硫酸エステル塩は酸性にすると加水分解されてもとのアルコールと硫酸とになるのに対して、スルホン酸塩は加水分解されない点です。


図 硫酸エステル塩、スルホン酸塩と酸の反応

そのため、スルホン酸塩は酸性溶液中でも問題なく使用することができます。また、スルホン酸塩は加熱されても硫酸エステル塩より分解しにくいので有利なことが多くなります。

スルホン酸塩型の界面活性剤には、アルキルベンゼンスルホン酸塩をはじめ、アルカノイルメチルタウライド、あるいはジアルキルスルホこはく酸塩などがあり、以降これらを紹介いたします。

アルキルベンゼンスルホン酸塩

スルホン化反応

スルホン化といえばすぐに思い出されるのがベンゼンなどの芳香族炭化水素の硫酸、あるいは発煙硫酸などによるスルホン化です。


図 ベンゼンのスルホン化反応

この反応を用いて、ベンゼンに、ドデシル基(CI2H25-)のような長いアルキル基をくっつけておいてスルホン化すれば界面活性剤ができます。
実際、この反応はスムーズに進行していろいろな界面活性剤ができ、これらを総称してアルキルベンゼンスルホン酸塩と呼びます。


図 アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの合成経路

工業的なスルホン化では、反応をスムーズにして余分な硫酸を用いなくてすむように、濃硫酸よりもずっと濃度の高い発煙硫酸や無水硫酸などがスルホン化剤として使われます。液体無水硫酸を使用する完全自動制御装置をもつ大きなプラントで大量生産が行われています。


図 ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムの合成経路

アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの用途・特長

アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは合成しやすいので、工業的にも純度の高いものが製造されます。工業用の市販品は有効成分60%くらいの淡黄色のペーストとして供給されるほかに、硫酸ナトリウムを加えてスプレードライヤーで小粒状に乾燥した粉末品もあります。

しかし、なんといっても大量に消費されるのは家庭用の合成洗剤であって、皆さんの家庭で使用される電気洗濯機用の多くの合成粉末洗剤がこのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムを主成分としていました。

アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、石けんなどよりもずっと水によく溶けます。その水溶液はよく泡だち、石けんよりは細かい泡がたくさんたちますが粘度が低いので消えやすくなります。浸透力も洗浄力もすぐれていて、硫酸エステル塩よりはすぐれた性能を発揮することが多くありますが、必ずしもあらゆる点ですぐれているわけではなく、一長一短があるといえます。

アルキルベンゼンの分類と製造法

アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの原料であるアルキルベンゼンの製造法にはいろいろな方法があります。長年の研究によって、アルキルベンゼンのアルキル基としてはドデシル基(C12H25-)程度のものがよいことが知られています。したがって、前述の例のように、家庭用洗剤の原料としてはドデシルベンゼンが広く使用されています。しかし、一口にドデシル基といっても、分岐の有無によって大きな違いが出てくるのです。

界面活性剤のうちでも、家庭用洗剤の主成分として大量生産されているので、その違いを簡単に紹介します。
アルキルベンゼンをアルキル基の分岐の有無によって2大別すると次のようになります。

分岐アルキルベンゼン

図 分岐アルキルベンゼン

プロピレンを重合させてプロピレンテトラマー(4量体)などをつくり、これをベンゼンと反応させて合成されます。分岐ドデシルベンゼンが代表的な製品です。

プロピレンを重合させてプロピレンテトラマー(4量体)などをつくり、これをベンゼンと反応させて合成されます。分岐ドデシルベンゼンが代表的な製品です。


図 分岐ドデシルベンゼンの合成経路

分岐アルキルベンゼンは、石油化学の発達により、世界的に安価に大量生産されるようになり、家庭用電気洗濯機用洗剤の主成分として普及しましたが、生分解性が悪い点が問題になり、直鎖アルキルベンゼンなどに替わられました。

分岐ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのことを略称して、ABS(alkylbenzenesulfonate)、分岐ABS、ハードABSなどといいます。
ABSは本来アルキルベンゼンスルホン酸塩の略称でありますが、初期には分岐ABSが全盛であったため、分岐ABSのみをさす意味に使用されることが多くあります。また塩の種類についても、ナトリウム塩の生産量が多いためナトリウム塩を意味することもあります。

直鎖アルキルベンゼン

図 直鎖アルキルベンゼン

分岐ドデシルベンゼンに替わり、より生分解性の良好な洗剤原料として登場してきた品種です。直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムはLAS(linearalkylbenzenesulfonate)、直鎖ABS、ソフトABSなどと略称されることが多くあります。

直鎖アルキルベンゼンは、塩素化パラフィンまたはオレフィンとベンゼンとを反応させて合成されます。


図 直鎖アルキルベンゼンの合成経路

塩素化パラフィンおよびオレフィンは鎖長の異なるものの混合物なので、純粋なドデシルベンゼンではなく、炭素数12付近のアルキルベンゼンの混合物です。

これら2種類、すなわち分岐と直鎖のアルキルベンゼンは同じように、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムの原料として有用です。性能的にもほぼ等しくなりますが、1つだけ大きな違いがあります。それは生分解性です。

アルキルベンゼンスルホン酸塩の生分解性

生分解性というのは、下水や川にいる微生物によって分解されやすいか、分解されにくいかということです。

石けんには動物や植物由来の原料が使われているので、下水や川に流れていってもすぐ微生物によって分解されてしまうので問題はありません。ところが、電気洗濯機用洗剤の主成分として、1950年代から1970年代にかけて大量に使用されるようになった分岐アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムも分解されにくく、また低濃度でもよく泡立つ性質をもっているために、川や下水処理場で泡立ちを生じ、大問題となったのです。

分岐アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、こうしてその使用が問題視され、より生分解性の良好な直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが主流を占めることになったのです。さらに生分解性のよい高級アルコール硫酸エステルナトリウムや高級アルコールEO付加物などもこの問題に重要な関連をもつようになってきています。

油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩

前項で紹介したアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムは、アルキルベンゼンスルホン酸塩のうちでも、とくに洗浄剤として大量に消費されている水溶性の夕イプのものです。本項では、アルキルベンゼンスルホン酸塩のもう1つのタイプである油溶性のものについて紹介いたします。
油溶性アルキルベンゼンスルホン酸塩は文字どおり、石油類や有機溶剤によく溶けるタイプです。

油溶性タイプにするには、疎水基(親油基)であるアルキル基を特別大きくするか、ナトリウム塩のかわりに水溶性の低いカルシウム塩などにする必要があります。

疎水基部分の大きいABS(Na塩)

図 疎水基部分の大きいABSの一例

天然の石油留分から、あるいは合成によって、炭素数20くらいのアルキル基をもつアルキルベンゼンが得られ、油溶性のアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムが生産されています。

この種の油溶性ABSは、ドライクリーニング用洗剤(チャージソープ)原料、切削油などの鉱物油用乳化剤成分などとして広く使用されています。油溶性で、しかも強力な親水性をもっているのが特徴です。

ABSのアルカリ土類金属塩

ふつうのABS、すなわち洗剤用のC12程度のアルキル基をもつアルキルベンゼンスルホン酸塩でも、ナトリウム塩でなく、カルシウム塩のような水溶性の低い形にすれば油溶性となり、農薬乳化剤成分などとして使用されています。


図 ドデシルベンゼンスルホン酸カルシウムの合成経路

疎水基部分の大きいABSのアルカリ土類金属塩

図 ABSのアルカリ土類金属塩

炭素数20程度のアルキル基をもつアルキルベンゼンスルホン酸カルシウムあるいはアルキルベンゼンスルホン酸バリウムは、さび止め剤成分あるいは重油スラッジ分散剤などとして有用です。

また、これらアルカリ土類金属塩を合成する際に特殊な工夫により、Ca(OH)2やMg(OH)2を余分に含有(オーバーベース)させたスルホン酸塩もつくられています。

これらはオーバーベースされたアルキルベンゼンカルシウムあるいはアルキルベンゼンマグネシウムなどと呼ばれ、潤滑油添加剤の1つである清浄分散剤として重要な油溶性界面活性剤です。

α-オレフィンスルホン酸塩

α-オレフィンに無水硫酸(SO3)を反応させると、複雑な反応の結果、α-オレフィンスルホン酸塩が得られます。家庭用洗剤原料として使用されています。α-オレフィンスルホン酸塩はAOS(α-olefinsulfonate)とも略称されます。


図 α-オレフィンスルホン酸塩の合成経路

アルカノイルメチルタウライド

アルカノイルメチルタウライドのなかでは、ドイツのIGによって開発された“イゲポンT”という製品がもっとも有名です。このものはオレイン酸クロライドをN-メチルタウリンと反応させてつくられる特殊な形をした界面活性剤であって、日本国内でも生産されています。


図 オレオイルメチルタウライドの合成経路

疎水基と親水基の間にアミド結合が入っているのがこの製品の特徴です。また、そのアミド基に結合しているメチル基も偶然入っているのではなくて、実にいろいろな研究の結果なのです。この製品は染色助剤、精練剤などとして独特の地位を占めており、その洗い上がりの風合いなどのすぐれた点が高く評価されているのです。

オレイン酸をやし油脂肪酸にかえたものは低刺激性であり、シャンプーの洗浄剤成分として使用されています。また、牛脂脂肪酸などを使用したもの、あるいはアミド結合のところのメチル基をフェニル基にかえたものなども知られています。

ジアルキルスルホこはく酸エステル塩

ジアルキルスルホこはく酸エステル塩のなかでは、米国で発明された“エアロゾルOT”という製品がもっとも有名です。

図 ジアルキルスルホこはく酸エステル塩(エアロゾル OT)

エアロゾルOTは左図に示すように、2つに分岐した疎水基をもった変わった形のスルホン酸型の界面活性剤です。

この化合物は化学名でいえば、ジ-2-エチルヘキシルスルホこはく酸エステルナトリウムです。左図の分子の形をよく見ていただきたい。分岐のつけ根に-SO3Na+がついています。すなわち、疎水基の中央に親水基がくっついています。

この化合物はアニオン界面活性剤のうちでこれ以上は望み得ないであろうというほどの高性能な浸透剤なのです。しかしながら、洗浄力のほうは分子の形からいってもほとんど期待できず、この製品は浸透剤が主用途であって、ほかは乳化剤などとして一部使用されている程度ですので、使用量自体はあまり多くありません。

また、この型のものは分子中にエステル結合をもっていて、この部分が強酸や強アルカリによって容易に加水分解されるので、この点も用途が制限される1つの原因になっています。

日本国内でもこれと同一の製品を生産しているメーカーがたくさんあります。その合成法はこれまで述べてきたスルホン酸塩とはまったく異なっています。すなわち、2-エチルへキサノールと無水マレイン酸(またはフマル酸)からジエステルをつくり、これを酸性亜硫酸ナトリウムの水溶液とかきまぜながら加熱して、マレイン酸(またはフマル酸)の二重結合にスルホン基を入れるのです。


図 ジ-2-エチルヘキシルスルホこはく酸エステルナトリウム

オレイン酸などの二重結合には、酸性亜硫酸ナトリウムをこのように簡単に付加させることはできません。化学的な説明は省略しますが、このような反応はマレイン酸エステルのような特殊な化合物の二重結合に起こりやすいものなのです。

アルキルアリルスルホこはく酸エステルナトリウム

この硫酸化方法を利用して、アルキルアリルスルホこはく酸エステルナトリウムがつくられます。
この化合物はジエステルの片方がアルキル基で、もう一方が二重結合を有するアリル基という非対称のジエステルです。このような構造により、ラジカル重合性モノマーなどとの共重合性を有する反応性界面活性剤となり、ソープフリー型乳化重合用乳化剤として使用されます。


図 アルキルアリルスルホコハク酸エステルナトリウムの合成経路

カルボン酸/スルホン酸塩

先ほど述べたジアルキルスルホこはく酸エステル塩は、マレイン酸のジエステルをスルホン化して得られ、親水基として分子中に1個のスルホン酸塩を有します。 


図 ジアルキルスルホこはく酸エステル塩

マレイン酸からはエステル化の条件を選ぶことにより、容易にマレイン酸モノエステルを得ることができます。マレイン酸のモノエステルを、上記反応の場合と同様にスルホン化すると、スルホン酸塩とカルボン酸塩をそれぞれ1個ずつ有するアルキルスルホこはく酸エステル二塩が得られます。この型の界面活性剤は低刺激性であり、ヘアシャンプーやボディーシャンプーとして用いられます。


図 
アルキルスルホこはく酸エステル二塩

図 ポリオキシエチレンアルキルエーテルスルホこはく酸エステル二塩 

また、高級アルコールのかわりに高級アルコールEO付加物を用いて無水マレイン酸のモノエステル化を行い同様にスルホン化すると、親水基として分子中にカルボン酸塩、スルホン酸塩およびポリエチレングリコール鎖をもつ界面活性剤が得られます。この型の界面活性剤は起泡性などがすぐれています。

これらの界面活性剤はいずれも、先ほど述べたジアルキルスルホこはく酸エステル塩と同様に分子内にエステル結合があり、容易に加水分解を起こすため、中性〜弱酸性のpH領域で使用する必要があります。

硫酸エステル塩

硫酸化にはスルホン化と硫酸エステル化があり、ここでは硫酸エステル化で得られる硫酸エステル塩について述べます。二塩基酸である硫酸1分子を中和するには水酸化ナトリウム2分子が必要です。


図 硫酸の中和反応(水酸化ナトリウム2当量)

もし水酸化ナトリウムが1分子しかないときは、硫酸は半分だけ中和されて、硫酸水素ナトリウム(酸性硫酸ナトリウム)になります。これも安定な化合物です。


 硫酸の中和反応(水酸化ナトリウム1当量)

これと同じように、硫酸とアルコールからエステルをつくる場合もモノエステルとジエステルをつくることができます。メタノールを例にとってみると次のようになります。


図 メタノールと硫酸のエステル化反応

ジエステルは水に溶けませんが、モノエステルは水によく溶けます。ただ、モノエステルは水に溶かしておくとだんだん加水分解してもとのメタノールと硫酸とになってしまいます。これを防ぐためには水酸化ナトリウムで中和しておくと、安定で、しかも水溶液を中性とすることができます。


図 メタノールの硫酸モノエステルの中和反応

このような硫酸の性質を利用して、メタノールのかわりに高級アルコールを用いれば、ア二オン界面活性剤ができます。
さらにこの反応を利用すれば、水酸基をもつ、アルコールに類似の化合物ならばたいていのものは硫酸エステル化でき、いろいろな界面活性剤をつくることができます。


図 高級アルコール硫酸エステル塩の合成経路

炭素ー炭素二重結合の硫酸化

また、アルコール性水酸基のほかに、炭素-炭素間の二重結合(>C=C<)も硫酸と反応して硫酸モノエステル塩になる性質があります。したがって、この反応を利用しても硫酸エステル塩型の界面活性剤をつくることができます。


図 炭素ー炭素二重結合の硫酸エステル化および中和反応

高級アルコール硫酸エステル塩(高級アルキル硫酸エステル塩)

図 高級アルコールの硫酸化反応

長鎖のアルキル基をもっている高級アルコールを硫酸化してつくられるアニオン界面活性剤です。高級アルコールの炭素数は石けんの場合と同じように12〜18がいちばん適しています。

硫酸化剤としては、硫酸、発煙硫酸、クロロスルホン酸、無水硫酸などが使用されます。また、直接アンモ二ウム塩をつくる場合には、スルファミン酸が使用されることもあります。

すでに紹介したように、高級アルコールには種々のものがあり、それぞれに一長一短があります。もっとも大きな違いは、これらでつくった洗剤で洗ったものの手ざわりが違うということです。たとえば、シャンプーした頭髪の手ざわりは、直鎖第一級アルコールからつくられたシャンプーを用いるといちばん滑らかです。

高級アルコールの硫酸エステルナトリウム
   
アルコール 硫酸エステル塩
ラウリルアルコール: C12H25OH
C12H25OーSO3-Na+
ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウム
セチルアルコール: C16H33OH
C16H33OーSO3-Na+
セチルアルコール硫酸エステルナトリウム
ステアリルアルコール: C18H37OH
C18H37OーSO3-Na+
ステアリルアルコール硫酸エステルナトリウム
オレイルアルコール: C18H35OH
C18H35OーSO3-Na+
オレイルアルコール硫酸エステルナトリウム

原料アルコールのアルキル基の炭素数(鎖長)とその硫酸エステル塩の水溶性あるいは洗浄性との関係は石けんの場合とよく似ています。鎖長の短い(C12)ラウリルアルコール硫酸エステルナトリウムでは、疎水性が比較的小なので低温でもよく水に溶け、洗浄性も良好です。鎖長の長い(C18)ステアリルアルコール硫酸エステルナトリウムは水に溶けにくく、熱い湯でなければ水溶性も洗浄性も大にはならないので、単独では用いにくいものとなります。

中程度の鎖長(C16)のセチルアルコール硫酸エステルナトリウムはラウリルとステアリルの中間で、いくぶんステアリルに近い性質をもっています。ところが、同じ炭素数が18であっても、オレイルアルコール硫酸エステルナトリウムは弱親水性の二重結合が分子の真ん中にあるので、水溶性も洗浄性もすぐれています。この二重結合の作用は石けんの場合とまったく同じで、界面活性剤全体を通じて成立します。

結合硫酸量と総脂肪質について

ここで、界面活性剤としての硫酸エステル塩を理解するうえで必要な結合硫酸量と総脂肪質について述べます。

話を具体的にするため、次のような製品形態のラウリルアルコール硫酸エステルナトリウムを例にあげて説明いたします。

主成分 C12H25OSO3-Na+
90.0%
未反応物 C12H25OH 4.0%
副生成物 Na2SO4 1.0%
H2O 5.0%
結合硫酸量の計算

結合硫酸量というのは、製品中で、高級アルコール(今回の場合ラウリルアルコール)に硫酸がSO3としていくら結合しているかを表す数値です。これまで親水基1つあたりの疎水基が長いとか短いとかによって、水溶性が変わるということをたびたび述べてきました。したがって、結合硫酸量の表し方はこれまで述べてきた疎水基の長さという言い方とは逆になりますが、考え方は同一です。

したがって、この製品の場合は、
C12H25OSO3-Na+の分子量=288.4
SO3の分子量=80.1、主成分の含有量=90.0%とすると
 結合硫酸量(%、製品あたり)=80.1/288.4 × 100 × 0.900=25.0 となります。

実際には、結合硫酸量(%)を測定して上式の逆算で主成分の含有量(%)を求めることが行われます。測定方法については割愛します。

総脂肪質の計算

総脂肪質というのは、製品中に油分が何%含まれるかを表す数値です。

したがって、この製品の場合は、C12H25OHの分子量=186.3とすると、

主成分に由来する脂肪質(%)=186.3/288.4 × 100 × 0.900=58.1
未反応物に由来する脂肪質(%)=4.0となり、
総脂肪質(%、製品あたり)=58.1+4.0=62.1 となります。

図 総脂肪質、結合硫酸量測定時の反応

実際の総脂肪質(%)を測定するには、製品を塩酸と加熱して結合している硫酸基をはずし、硫酸化する前の高級アルコールの形にしてからジエチルエーテルなどで抽出してその量を測定します。

結合硫酸量と総脂肪質を用いた主成分、未反応物の含有量の計算

前項にて総脂肪質と結合硫酸量について説明いたしました。

では、セチルアルコールの硫酸エステルナトリウムに次の表示があった場合、どのようなことがわかるでしょうか?

総脂肪質 40.0%
結合硫酸量/総脂肪質 28.0%

i) セチルアルコール硫酸エステルナトリウムの含有量(主成分の%)

結合硫酸量/総脂肪質 × 100=28.0(%)の式に総脂肪質40.0%を代入すると、結合硫酸量=11.2%が得られます。

得られた結合硫酸量の数値とセチルアルコール硫酸エステルナトリウム(C16H33OSO3-Na+、以下主成分)の分子量(344.5)を下式に代入すると、主成分の含有量は48.2%と算出されます。

結合硫酸量(%)= SO3の分子量(80.1) / 硫酸エステル塩の分子量  ×  硫酸エステル塩の含有量(%)

ii)セチルアルコールの反応率

セチルアルコールの分子量(242.4)、主成分の含有量(48.2%)および主成分の分子量(344.5)を下式に代入すると、主成分由来の脂肪質は33.9%と算出されます。

主成分由来の脂肪質(%)=セチルアルコールの分子量/主成分の分子量 × 主成分の含有量(%) =242.4/344.5 × 48.2 = 33.9%

これらの数値から、セチルアルコールの反応率、さらに未反応の脂肪質(未反応のセチルアルコール)含有量が計算されます。

反応率(%)= 主成分由来の脂肪質(%)/総脂肪質(%) × 100 = 33.9/40.0 × 100 = 84.8%
未反応物由来の脂肪質(未反応のセチルアルコール、%)= 総脂肪質(%) ー 主成分由来の脂肪質(%) = 40.0-33.9 = 6.1%

すなわち、未反応のセチルアルコールが6.1%残っていることになります。

以上のように、総脂肪質と結合硫酸量/総脂肪質から、主成分の含有量や未反応物の含有量が求められるので、それらの数値を念頭において界面活性剤を扱うことが大切です。さて、純粋な硫酸エステル塩の結合硫酸量/総脂肪質は下表のようになります。

この表を見てもわかるように、疎水基が長くなるほど結合硫酸量/総脂肪質(%)の理論値は減少して親水性が少なくなってきます。しかし、ステアリルアルコールとオレイルアルコールでは理論値はほとんど変わらないのに、実際の水溶性はいちじるしく異なります。これは、二重結合による弱親水性はこの理論値には関係がないので、たとえ理論値はほとんど同じでもオレイルの方は二重結合があるため、水によく溶けます。

したがって、二重結合とかエステル結合のような結合硫酸量にあまり関係のない親水性や疎水性は、この表示法では数字になってほとんど現れてきません。一般に、結合硫酸量と同時にその原料アルコールあるいは原料油脂の種類を知れば、硫酸エステル塩の親水性がすぐに推定されるはずです。

高級アルコール硫酸エステル塩の理論値
   
原料アルコール 硫酸エステル塩 結合硫酸量/
総脂肪質 (%)
備考
ラウリルアルコール C12H25OSO3-Na+ 43.0
ミリスチルアルコール C14H29OSO3-Na+ 37.4
セチルアルコール C16H33OSO3-Na+ 33.0
ステアリルアルコール C18H37OSO3-Na+ 29.6
オレイルアルコール C18H35OSO3-Na+ 29.8 ーOHのみが全部硫酸化され、
>C=C<は反応しないとしたとき

また、この表に示した数値は原料の高級アルコールがすべて硫酸化されたときの値です。工業的には100%反応させるということは困難であって、特別の場合以外には製造されません。先に計算したように、ふつう、理論値の8割とか9割くらい反応したものが製造されているのです。しかしながら、すべて反応したものほど性能がよいというわけではないので、それぞれの目的に応じた反応率が研究されて製造されています。このようなことのために同じ高級アルコールの硫酸エステルナトリウムといっても、各社の製品にいろいろ特徴があって、けっして同一ではないのです。

上表では、オレイルアルコールの結合硫酸量/総脂肪質(%)の理論値は29.8%であると記載していますが、これはその水酸基のみが反応したときのことであって、実際は分子中の二重結合も硫酸エステル塩となるので本当の理論値は29.8×2=59.6%くらいですが、実際にはこのように高い結合硫酸量のものは製造されていません。多くの製品中に水酸基のみが硫酸化されたものと、二重結合のみが硫酸化されたもののほかに、一部、両方が硫酸化されたものが存在する程度です。

したがって、オレイルアルコール硫酸化製品については、結合硫酸量/総脂肪質(%)の理論値が29.8%以上のものも存在しうるわけで、この場合は、二重結合と水酸基の両方が硫酸化したものの比率が多いのだと解釈すればよいのです。しかし、両方に反応したものは水溶性が良好ですが、洗浄性はあまり期待できません。

これらの高級アルコール硫酸エステル塩は溶解性、洗浄性ともに石けんにまさり、水溶液が中性であるために羊毛などを傷めにくいなどのいろいろの利点があり、しかも硬水で使っても石けんのように沈殿を生じたりしないので、工業用にも家庭用にも広く使用されています。しかしながら、この型にも欠点はあって、水溶液が強酸性になると加水分解してもとの高級アルコールに戻ってしまい、また、高温にさらされると分解しやくなります。

高級アルコールエチレンオキシド付加物硫酸エステル塩(高級アルキルエーテル硫酸エステル塩)

高級アルコールEO付加物硫酸エステル塩は前項の高級アルコール硫酸エステル塩とよく似ています。
すなわち、高級アルコールにエチレンオキシドを付加させ、ついで硫酸エステル塩にしたものです。


図 ラウリルアルコールEO付加物硫酸エステルナトリウム

高級アルコールEO付加物のことを高級アルキルポリエチレングリコールエーテル、略して高級アルキルエーテルと呼ぶので、高級アルコールEO付加物硫酸エステル塩のことを高級アルキルエーテル硫酸エステル塩ということもあります。

上記の式は、もっともよく使用されるラウリルアルコールEO付加物硫酸エステルナトリウムを説明したものです。エチレンオキシドの付加モル数(n)は2~4がふつうです。 

ラウリルアルコールEO付加物硫酸エステル塩の性質と用途

ラウリルアルコール硫酸エステル塩とラウリルアルコールEO付加物硫酸エステル塩とはどう違うのでしょうか?ポリエチレングリコール鎖が入ると、水溶性が向上するとともに、硬水中でも起泡性が大きいという特徴が生じてきます。
したがって、髙級アルコールEO付加物硫酸エステル塩はシャンプーなどの基剤として広く使用されています。 

また、高級アルコール硫酸エステル塩は皮膚刺激性が大きいことが知られています。高級アルコールEO付加物硫酸塩には、EO付加モル数に分布があり、エチレンオキシドが付加されない高級アルコール硫酸エステル塩も少量含まれています。近年、特殊な触媒を用いてアルコールにエチレンオキシドを付加することにより未反応アルコールの少ない高級アルコールEO付加物を合成することができるようになり、高級アルコール硫酸エステル塩含有量を低減した低刺激性の高級アルコールEO付加物硫酸エステル塩が市販されています。

この分野においても、合成アルコールの進出はいちじるしく、オキソアルコールやチーグラーアルコールが天然のラウリルアルコールと同様にシャンプーなどに広く利用されています。

セカンダリーアルコールのEO付加物硫酸エステル塩

また、パラフィンの空気酸化によって得られる合成アルコールであるセカンダリーアルコール(第二級アルコール)も高級アルコールEO付加物硫酸エステル塩として、液体洗剤などに利用されます。このセカンダリーアルコールは合成の都合上、エチレンオキシド3モル付加物として、タージトール、ソフタノールなどの商品名で、アルキル基の炭素数C11~C15のものが市販されています。

硫酸化油、硫酸化脂肪酸エステルおよび硫酸化脂肪酸

前項では高級アルコールの水酸基や二重結合が硫酸との反応によって硫酸エステルとなり界面活性剤ができることを説明しました。では、同じように水酸基や二重結合をもっている脂肪酸とか、あるいはそのような脂肪酸のエステルなどについてはどうでしょうか?

やはり、硫酸化によって硫酸エステル塩型のアニオン界面活性剤ができます。硫酸化に使用される代表的な脂肪酸とそのエステル類を下表に記載いたします。

水酸基や二重結合をもつ代表的な脂肪酸エステルを含む原料
   

脂肪酸エステルの型
油脂
(グリセリンのトリエステル)
低級アルコールエステル
(合成品)
不飽和脂肪酸オレイン酸オリーブ油、
落花生油、
牛油
オレイン酸メチル
C17H33COOCH3

オレイン酸ブチル
C17H33COOC4H9
リシノレイン酸ひまし油リシノレイン酸メチル
リシノレイン酸ブチル

また、今後たくさんの油脂類の名前が登場するので、それぞれの油がどのような脂肪酸のグリセライドであるかを理解していただくために、下表に各油脂の組成表を記載いたします。

上表に示すような不飽和脂肪酸のエステル類を実際に硫酸化すると、高級アルコール硫酸エステル塩とは大きく性質の異なるものができます。それは親水基である硫酸基が分子の中央付近にくっつくことになるからです。こうなると高級アルコール硫酸エステル塩のような強力な洗浄力は期待できそうもなくなってきます。実際、これらの硫酸化製品はほとんどが洗剤以外の特殊な繊維工業用途に用いられているのです。

それぞれ疎水基原料の種類別に簡単に紹介します。

主要な油脂の脂肪酸組成*

*: 財団法人油脂工業会編"世界の油脂原料事情", 幸書房"油脂油糧ハンドブック"を参考にした。
**: Cのあとの数字は脂肪酸の炭素数を、Fのあとの数字は脂肪酸に含まれる二重結合の数を意味する。
***: こめ油(米油)、ぬか油と呼ばれることもある。
****: C18F4およびC20F0の脂肪酸も含む
*****: さらにリシノール酸(二重結合以外に1つの水酸基を有する): 87.2~89.9、およびジヒドロキシ酸: 0.3~1.0を含む

炭素
脂肪酸
C:炭素数
F:不飽和度
やし
パーム
核油
パーム
オリーブ
大豆
落花生
***
米ぬか
なたね
ひまし

8 C8F0 **
(カプリル酸)
5.8 2.2
10 C8F0
(カプリン酸)
6.5 2.8 痕跡
12 C12F0
(ラウリン酸)
51.2 49.1 痕跡 痕跡
14 C14F0
(ミスチリン酸)
17.6 15.1 1.0~1.1 痕跡 0.2 3.3
~3.5
C14F1
15 C15F0
C15F1 痕跡
16 C16F0
(パルミチン酸)
8.5 8.0 45.3 10.6~
11.8
10.8
~12.2
9.9~
12.0
17.6 3.4 1.0
~1.1

26.6
~27.4

C16F1 痕跡 痕跡 痕跡
17 C17F0
C17F1
18 C18F0
(ステアリン酸)
2.7 2.4 4.3
~4.4
2.2
~3.6
3.4
~4.2
2.1
~4.2
1.3 1.2 0.7
~1.0
18.2
~25.8
C18F1
(オレイン酸)

6.5

18.4 38.8
~40.3
71.0
~77.2
20.4
~23.1
37.3
~49.3
39.5 16.5 *****
3.1
~4.1
35.7
~41.2
C18F2
(リノール酸)
1.2 2.0 8.8
~9.8
7.2
~13.0
53.7
~55.8
31.6
~41.7
38.2 16.2 4.4
~5.2
痕跡
~3.3
C18F3
(リノレン酸)
痕跡
~0.1
0.9 6.4
~10.1
1.0
~1.8
1.5 ****
9.5
0.9 痕跡
~1.1
20 C20F0 0.1
~0.7
1.1
~1.7
0.5
C20F1 0.5
22 C22F0 1.9
~3.5
0.2 0.7
C22F1 41.4
24 C24F0 0.3
その他 0.0~2.0
硫酸化油

図 硫酸化油

硫酸化油というのは、天然の不飽和油脂あるいは不飽和のろう油をそのまま硫酸化して中和したものの総称です。

ロート油は古くから製造されている硫酸化油の代表であって、ひまし油を硫酸に適した特徴のある各種の新しい界面活性剤が製造されるようになったために、現在ではほとんど使用されなくなっています。


硫酸化油に属するものとしては、ロート油のほかに、硫酸化牛脂、あるいは硫酸化落花生油などが工業的に生産されています。これらもやはり結合硫酸量が比較的小さいので、水にやっと溶けるかあるいはエマルションになる程度の親水性しかもっていません。

したがって、洗剤としてはまったく用いられず、紡績油剤、織布用油剤あるいは繊維仕上剤などの配合基剤として以前は多く使用されていましたが、最近ではこれらの需要も少なくなってきています。

硫酸化脂肪酸エステル

図 硫酸化脂肪酸エステル

天然油脂類とは別に、不飽和脂肪酸の低級アルコールエステル、たとえば、オレイン酸ブチルとかリシノレイン酸ブチルを硫酸化しても硫酸エステル塩型のアニオン界面活性剤をつくることができます。

これらはみな、ロート油の改良品と考えてよいような性能をもっています。結合硫酸量/総脂肪質もロート油よりは高くて15〜20%もあり、浸透力もよりすぐれていて、そのうえ比較的低起泡性であるために染色助剤として使用されています。

硫酸化脂肪酸

不飽和脂肪酸をそのまま硫酸化したものであって、その性質は脂肪酸エステル硫酸化物とよく似ています。

硫酸化オレフイン

硫酸化できる水酸基や二重結合をもつ化合物として高級アルコールや油脂類があることを前項までに記載しました。これらはみな動植物から得られるものばかりです。では、石油そのものからは何かそのようなものは得られないのでしょうか?二重結合をもった炭化水素(オレフイン)のうちの鎖長がC12~C18のものを選ベば、良好な硫酸エステル塩型の界面活性剤を合成することができるはずです。これらを総称して硫酸化オレフィンと呼びます。

この種のものは以前から主としてヨーロッパで多く生産されており、そのなかではシェル社の“ティーポール”が有名です。これはパラフィンワックスを高温で分解してつくったC12~C18くらいのα-オレフイン(分子の末端に二重結合のあるオレフイン)を硫酸化してつくった洗剤です。

次の式でみられるように、硫酸はオレフィン分子の端にはつかず、1つ隣りの炭素につきます。α-オレフィンは一度に全部は硫酸化されにくいので、未反応物を回収するなどして、結合硫酸量の高い製品がつくられます。


図 硫酸化オレフィンの合成経路

ティーポールは水によく溶けるので濃い溶液にすることができ、液体洗剤の原料として使用されます。また、α-オレフィンを無水硫酸でスルホン化して、硫酸エステル塩型ではなく、スルホン酸塩型のα-オレフィンスルホン酸塩も生産されています。

りん酸エステル塩

りん酸エステル塩型のアニオン界面活性剤は、主として合成繊維用帯電防止剤とか乳化剤などに用いられます。多く用いられるのは、高級アルコールなどのりん酸エステル塩です。

高級アルコールりん酸エステル塩(高級アルキルりん酸エステル塩)

図 硫酸化脂肪酸エステル

化学構造としては左図の2種が代表的です。

モノエステル型のものは水によく溶解しますが、ジエステル型のものは溶解しにくく乳化する程度です。実際に使用されているものはこの両者の混合物が多くなります。

りん酸エステル塩の合成には、無水りん酸によるりん酸化が多く行われています。この反応では、モノエステルとジエステルの混合物ができますが、合成条件のエ夫によって、その比率はかなり自由にコントロールすることができます。


図 
りん酸エステル塩の合成(無水りん酸によるりん酸化)

高級アルコールエチレンオキシド付加物りん酸エステル塩(高級アルキルエーテルりん酸エステル塩)

りん酸エステル塩型界面活性剤として、もっとも広く使用されているのは、高級アルコールEO付加物のりん酸エステル塩です。この型のものは、ポリエチレングリコール鎖があるために水溶性も良好で、帯電防止能も高級アルコールりん酸エステル塩よりも一般にすぐれています。

ナトリウム塩あるいはアミン塩の形で、それぞれ工夫をこらしたものが利用されています。とくにトリエステル型のものは、アニオン界面活性剤ではなく、非イオン界面活性剤です。アニオンがきらわれるような特殊な用途に使用されます。


図 りん酸エステル塩

トリエステルの合成は、オキシ塩化りんによる反応で行われることが多くなります。


図 リン酸トリエステルの合成経路

一般的にいえば、りん酸エステル塩型界面活性剤は、単独で使用されることは少なく、配合用成分として使用されることが多くなります。

ジチオりん酸エステル塩

図 ジアルキルジチオりん酸亜鉛

りん酸エステル塩に化学構造が類似した油溶性アニオン界面活性剤として、ジアルキルジチオりん酸亜鉛と呼ばれる一群があります。

潤滑油添加剤の1つとして有名であり、酸化防止剤兼摩耗防止剤(極圧添加剤)として広く使用されています。 

アニオン界面活性剤まとめ

以上で大よそ重要なアニオン界面活性剤のことを説明しました。これらを疎水基と親水基の組み合わせで分類してみると下表に示すようになります。

石けん以外はみな耐硬水性が良好です。そして硫酸エステル塩はアルカリ性では比較的安定でありますが酸性では分解しやすくなります。また、分子中に-COOCH2-などのエステル結合をもつものはアルカリや酸で分解されやすくなります。このような点を十分理解して、この表でこれまでの知識を整理していただけますと幸いです。

アニオン界面活性剤の分類*
* 故小田良平氏(元京大名誉教授)の考案した碁盤目整理法をいくぶん変形したものである。
**メルゾラートなどの名で第2次世界大戦中ドイツで製造された洗剤
脂肪酸塩
ーCOONa
硫酸エステル塩
ーOSO3-Na+
スルホン酸塩
ーSO3-Na+
りん酸
エステル塩
ジチオりん酸
エステル塩
パラフィン **
α-オレフィン ティーポール
などの洗剤
α-オレフィン
スルホン酸塩
高級アルコール 高級アルコール
硫酸エステル塩
(洗剤、乳化剤)
(繊維などの
帯電防止剤)
ジアルキルジチオ
りん酸亜鉛
(潤滑油添加剤)
脂肪酸 石けん
(洗剤、
乳化剤)
硫酸化脂肪酸
(染色助剤)
α-スルホン化
脂肪酸
脂肪酸エステル 硫酸化脂肪酸
エステル
(染色助剤)
α-スルホン化
脂肪酸エステル
油脂 硫酸化油
(ロート油などの
染色助剤あるいは
繊維用油剤)
アルキルベンゼン アルキルベンゼン
スルホン酸Na
および
アルカリ土類金属塩
(洗剤、乳化剤、浸透剤、
潤滑油添加剤)
イゲポンTなどの洗剤
エアロゾルOTなどの浸透剤

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